徳仁天皇が口に運ぶのは3口の新穀と粟(あわ)のみである。注目したいのは、庶民の食べ物である粟が含まれている点だ。

 歴史学者の岡田荘司氏の説を踏まえる形で、前出の藤森さんが言う。

「米は、天照大神からのいただきものとして大切に供えられます。天皇は、災害から民を守る役割を担う存在でした。災害や飢饉(ききん)の多い列島で、国民の食糧である粟を育ててくれた感謝の意味が込められていた」

 大嘗祭が、夜から明け方にかけて行われる儀式であることも、「秘儀」説が広まった理由のひとつだ。

 平成では、悠紀殿供饌の儀は、午後6時半から同9時半ごろまで続き、休憩を挟んで深夜の午前零時半から始まった主基殿供饌の儀は明け方の3時すぎまで行われた。

 なぜ夜中なのか。

「即位を宣明する『即位礼正殿の儀』は、政治的な儀式ですから、昼間に行われます。一方で、神祭りの儀式は古来、夜に行われてきました。大嘗祭や新嘗祭を行う時刻は、もののけが出る丑(うし)三つ時にあたる。もともと妖怪は、まつられなかった神様が変化したものですからね」(藤森さん)

 平成の代替わり儀式は、各地の神社で火炎瓶が投げ込まれるなど、天皇制に反対する動きがあった。大嘗祭に新穀を納める悠紀地方と主基地方の2カ所の斎田は、亀の甲羅を使う亀卜(きぼく)で決められる。平成のときは、ギリギリの段階まで場所は極秘にされた。

秋篠宮さま発言 政教分離に言及
 平成で悠紀田の大田主を務めた、伊藤容一郎さんはこう振り返る。

「大変なお役目を無事に果たすために、夢中でした。しかし、自分にも家族にも警察の警護が付きましたし、大田主として公表された夜は、自宅に脅迫電話がかかってきました。いまと違い、大嘗祭にいろいろな意見を持つ人がいたのです」

 大嘗祭には、常に政教分離の問題がある。今回は来年度予算の概算要求額を含め、計約24億4千万円。政府は、「公的性格」を持つ皇室行事との見解だが、宗教色の強い大嘗祭への公費支出は、憲法が禁じた宗教的活動にならないか、との指摘だ。

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