さて、かわって“美婆”のつくりかたを伝授してくれたのは、多くの女優たちに支持されているヘア&メイクアップアーティストの長網志津子さんだ。

 長網さんも、年齢と共にターンオーバーの周期が乱れてくることを忘れないでほしいと話す。

「ターンオーバーが乱れて、肌の古い角質がなかなかはがれないと、肌はどんどんくすんできます。くすんだ肌は、顔を実年齢よりも老けて見せるもの。血色も悪く見えますから、疲れた印象をひとに与えてしまいがちです。できれば月に1回くらいはスクラブクリームなどで洗顔をして、顔の古い角質はきちんと取り去るよう心がけましょう」

 毎日の洗顔は、絶対に強い力でゴシゴシ洗わないことが大切だ。

「肌の汚れを取ろうとゴシゴシ洗ったり、そのあとタオルでゴシゴシ肌を拭くようなことをしてはいけません。それでは重力に引っ張られて肌がたるんでいくのを、わざわざ後押しするようなものです。洗顔は肌に負担がかからないよう、やさしいタッチで行うことです。朝の洗顔は、洗顔料を使わないで“ゆすぐ”くらいの感覚でもよいでしょう。これは年を重ねれば重ねるほど意識していただきたいことです」

 そして顔のたるみをケアする方法として長網さんがもうひとつすすめてくれたのは、顔の体操を毎日することだ。

「私自身がもう長い間続けていることです。私はお風呂で湯船につかっているときなどに行っていますが、一日のうち、いつ行ってもかまいません」

 スッと上を向き、下唇だけを前にニューッと突き出してみる。他人にはあまり見られたくない姿だが、これだけでも縮こまっていた首筋が伸びるのを感じるだろう。

「首の老化というものは、実は顔の老化よりも目立ちやすいものです。首に横ジワが何重にもついていると、ひとの視線というものはどうしても、そこに集中してしまうのです」

 そこで次に、上を向いたまま口を「う」の形にする。首筋がより伸ばされ、フェイスラインも引き上げられる。この顔体操をセットで30回繰り返す。

「トータル4分の体操ですから、続けていきやすいと思います。男性でも女性でも、年齢と共に口角が下がってくると、なんだかいつも怒っているような顔に見られがちです。でも怒り顔というものは、損以外のなにものでもありません。口角が下がってこないように、そしてフェイスラインもブルドッグのようにたるんでこないように、口元やフェイスラインは常に鍛えていく意識を持ちましょう。男性もぜひトライしてみてほしいと思います」

 もう年だから、いちいち何かをやるのは面倒くさい。そう言って放り出してしまうことは、いつでもできる。無理せず、焦らず、淡々と。ささやかな努力を「くだらない」と切り捨てないことが、まさしく“美婆への道”なのである。(ライフジャーナリスト・赤根千鶴子)

週刊朝日  2019年11月8日号