ただ、やはり危険なことなどはやめてもらわないと困ります。父はたばこを吸っていて、火のついたたばこをベッドに持ち込んだりするので、ちょっと怖かった。だから、それは隠したりしました。しばらくしたら本人が、たばこを吸うという行為を忘れてしまって、一件落着しました。

 親が認知症になる前にやっておくことというのは、通帳などの場所を知っておくとか、その程度しか思いつきませんが、早めに認知症外来を受診することはおすすめしています。

 早期発見すれば対策も立てやすく、進行を遅らせる薬があるからです。うちの場合は、主治医の先生がすごくいい方で、「私の母校の大学に『物忘れ外来』という、ちょっと物忘れが気になってきた人のための外来ができたんですが、できたばかりで開店休業みたいな感じなんで、ひとつ人助けと思って、行ってみてやってくれませんか」と、ものすごく父のプライドを満足させる言い方ですすめてくださったんです。

 それで「人助け」と思って行ったのが最初でした。私自身、同じことを繰り返すようになったというような初期症状を指摘されるようになったら、すぐに「物忘れ外来」や「老年科」に行こうと思っています。

――誰でも認知症になる可能性があり、認知症は特別な病ではなく、老化の一つだと捉えるべきと言われている。「認知症との共生」を実現するためには社会はどう変わるべきなのか。

『ゆかいな認知症』(講談社現代新書)という本を読んだのですが、その中で、「認知症カフェ」の話が出てくるんです。「認知症カフェ」というのがあちこちにできていて、認知症の人と家族が、そこに行けば認知症の人と家族に出会える場のようです。

 でも、本の中で認知症の方々はみなさん「『認知症カフェ』じゃなくて、ふつうのカフェに行きたい」とおっしゃっていました。たしかに、そうだろうなあと思いました。

 食事に制限があるわけでもないし、とくに家族といっしょなら、ふつうのカフェで何も問題はないですよね。認知症というよりも、老化が進むといろいろな制限が出てきます。例えば、うちの父は足が悪くなり、あまり歩けなくなりました。でも、それまでは、駅前の喫茶店に行くのを楽しみにしていました。

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