いまはずいぶん変わってきましたが、認知症というと、人格崩壊みたいなイメージがあって、この世の地獄を見ると思う方もまだいらっしゃると思います。

 でも、「誰でも認知症になる」世の中で、地獄ばっかりみたいなことを考えるのは、ちょっと過剰反応だと思います。認知症の人がいるのがふつう、という意識を誰もが持ち、ひとり歩きしているらしい老人を見かけたら「どうしました?」と声をかけて、家に連れ帰ってあげるような人たちがたくさんいる社会になれば、いいのではないでしょうか。

 認知症になって記憶が喪失したり、見当識障害が出たり、失語症状が出たりしていても、プライドや感情は、失われていないことが多いと思います。このあたりは、介護者としては肝に銘じておくべきです。認知症患者をバカにしたり、子供扱いしたり、他人の前でプライドを傷つけるようなことをしないようにしたいと思います。

 認知症の症状が進み、自分で自分のことがコントロールできなくなるというのは、当事者にとってはほんとうにつらいことだと思います。

 コミュニケーションがうまくいかないときは、なかなか難しいのですが、認知症患者には心がある、恥ずかしいとか、つらいとか、そういう気持ちがあるということは忘れないで、介護しなければと思います。

 自分には子供がいないので、最期を誰がみてくれるのか、みてもらえないのかもしれないのですが、希望としては、最後まで人間らしい扱いを受けたいという気持ちがあります。

 だから、認知症の方に対して、「なんにもわかんないんだから、なにをしても平気」みたいな態度で接するのだけは、やってはならないと考えています。

(ライター・小島清利)

週刊朝日  2019年10月11日号