大阪府内の築50年の公団住宅。4年後の建て替えが決まった
大阪府内の築50年の公団住宅。4年後の建て替えが決まった

 相続の現場で今、大きな問題になっているのが“負動産”。昭和時代に建設された大規模団地や借地権が設定されたアパートなどを遺されると、相続した人はその処理に四苦八苦する。“困った遺産”と、その対処法をライターの森田聡子氏が取材した。

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■築50年の公団住宅

 高度経済成長期、首都圏や関西圏などに続々と建設され、ニューファミリーの憧れ的存在だった日本住宅公団(現独立行政法人都市再生機構)の集合住宅。しかし、半世紀が経過したいま、この公団住宅が相続人を悩ます“困った遺産”になっている。

 50代の女性はこの6月に80代の母親を亡くしたばかり。相続の手続きに取りかかって、驚くばかりの事実が判明した。女性は一人っ子で、両親は元公務員。父母ともに月額20万円強の年金収入があった。にもかかわらず、貯蓄はほとんどなく、将来相続するのは大阪府内にある実家だけとなる公算が大きいという。

 実家は築50年の公団住宅。新築で入居した10年後に隣戸も購入し、壁を抜いて2軒を自由に行き来できるようにしている。1軒目は父親名義、2軒目は母親から女性が相続する予定だ。

 実家にはいま80代の父親が一人で暮らしており、女性は「判断能力がだいぶ低下していて正直、心配です」と話す。いずれは実家近くの介護型サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に入ってほしいと考えているが、担当のケアマネジャーを通じて費用を調べたところ、入居一時金が不要とはいえ、月額費用25万円は父親の年金だけでは賄えないことがわかった。

 実家の評価額は2軒合わせて1千万円ほど。ただ、10年ほど前から建て替えの話し合いが進んでおり、最近になって4年後に戸数を増やして建て替えを行うことが決まった。父親がサ高住に入居した後に実家が売れれば、売却資金でサ高住の費用を補填することができる。しかし、実家のあるエリアには府営や市営の集合住宅が集中しており、実家より地下鉄の駅に近い好条件の物件が幾つも空き家のまま残されている。

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