女性には他県に夫と暮らす自宅があり、この先も実家に住むつもりはないという。予定どおりに実家が売れないと、2軒分の管理費や修繕積立金、固定資産税など、年額で約40万円を負担し続けることになる。さらに父親がサ高住に入居すれば費用の援助が必要な可能性もあり、「ただでさえ老後資金が不安なのに、これだけの出費は……」と動揺を隠せない。

 とはいえ、高齢の父親の今後が不透明なこと、内装を変えてしまったため1軒だけ売却するのが難しいことから、身動きが取れない状態になっている。

「老朽化した公団住宅の場合、建て替えの話し合いが難航しているなら、家族で話し合ったうえで早めに売却するのがいいでしょう。一方、女性の実家のように建て替えが決まっているケースでは、建て替え後に割り当てられる物件が破格の好条件となることもあります。建て替え計画書などでそれがわかっているなら、あえて売り急ぐ必要はありません」

 円満相続税理士法人の統括代表社員(税理士)、橘慶太さんはそう助言する。

 女性のケースで気になるのはむしろ、父親の健康状態だという。認知症と診断されると不動産の売却には成年後見制度の利用が必須になるため、橘さんは意思能力があるいまのうちに本人の了解を得、父親名義の物件を女性に贈与しておくことを勧める。

「物件の評価額が贈与税の非課税枠(年110万円)に収まらない場合は、相続時精算課税制度を検討するといいでしょう。父親の存命中、最大2500万円まで非課税で贈与が可能になります。相続が発生した時点で精算する形ですが、実家以外の相続財産がなければ課税されない可能性が大です」

■借地権付きのアパート

 2年前に夫を亡くした80代の女性にとって一番の“困った遺産”となったのが、東京都内のアパート(木造2階建て、敷地面積149平方メートル)だった。

 築40年のアパートは以前、女性一家が暮らしていた土地に建てたもの。他県に自宅を購入した際、当時中学生だった2人の息子が将来結婚して住む可能性を考え、上下階ともベランダ付きの1LDK(45平方メートル)というゆとりのある設計にした。

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