共同確認書ではギャラの配分は明記されないため、吉本は個別の契約見直しにおいて、芸人側に伝えていくとみられる。

 吉本はいままでの「専属マネジメント契約」に加え、芸人が自分で活動をマネジメントできる「専属エージェント契約」を新たに導入する。売れっ子であれば専属エージェント契約を選択し、ギャラの配分も有利にすべく交渉できそうだ。一方で、大半の芸人は、従来通りの専属マネジメント契約になるとみられ、待遇改善につながるかどうかは見通せない。

 委員会終了後の会見では、公取委がタレントとの契約などを巡り注意喚起していることについて質問が出た。川上氏によると、独占禁止法上問題となる「優越的地位の乱用」などがないよう、委員からも意見が出たという。

「吉本からは、売れている芸人さんの方が強いので優越的地位という発想がないということだった。辞めた芸人に対して(テレビ番組などに)出させないようにしている圧力に関しても、『一切ない』との説明でした」(川上氏)

 公取委は、移籍・独立をあきらめさせることや契約の一方的な更新、正当な報酬を支払わないことや出演先に圧力をかけて芸能活動を妨害することは、問題があるとしている。芸能界では、事務所から独立したタレントを使わないようテレビ局などに事実上の圧力をかける「独立妨害」が、長年行われてきた。東京のテレビ局関係者もこう明かす。

「テレビ局は番組制作の主な部分を、吉本興業など大手芸能事務所に頼ってきました。テレビ局にとっては、人気タレントを比較的安い費用で集めて視聴率を稼げる。事務所にとってはテレビ局との関係を深め、人気タレントに抱き合わせて若手を売り込むことができる。所属タレントと『共演NG』にすることで、独立したタレントを番組に出演させにくくすることもできる。テレビ局と大手芸能事務所は、持ちつ持たれつでやってきたんです」

 今回、吉本が“独立容認”を明言したことは、こうした業界の慣行が変わるきっかけになりそうだ。公取委は芸能界の改善を注視していくという。

「働き方改革のなかで副業が広がるなど、フリーランスで働く人の環境整備が求められています。芸能界は国民の関心も高く、フリーランスのタレントの権利をどう守っていくか重要な課題です」(公取委幹部)

 今後は、吉本に法令順守の徹底を求めてきた、テレビ局の対応が問われる。大手芸能事務所の意向を“忖度(そんたく)”してきた慣行を改めなければ、公取委はもちろん視聴者からも厳しくチェックされそうだ。(本誌・多田敏男)

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