夏の高校野球において最速タイとなる160キロ。

 7年前の夏、岩手・花巻東の大谷翔平(現エンゼルス)が同球場で記録した数字。当時と同じ赤いランプで表示された最速球は、高校球史に残る1球となった。

 球審の右手は上がらなかった。それでも、そのストレートを目の当たりにした打席の岸田は、衝撃を受けた。

「たたきつけるような感じで、一瞬、足もとのボールだと思ったら、ひざより上に来て。浮き上がってくる感じというか、伸びがありました」

 岸田にしてみれば、「手が出なかった」。それだけ洗練された1球だった。

 九回裏に同点に追いつかれ、試合は延長戦に突入したが、佐々木はマウンドに立ち続けた。一度は負けを「覚悟した」九回裏を乗り切り、十回裏から再びギアを上げて三振の数を増やした。タイブレークが頭をよぎり始めた十二回表に、自らのライトポール際への飛距離十分の2ランで勝ち越すと、今夏の主役はその裏を三者三振。女房役の及川のもとへ駆け寄り、涙の前の笑顔を見せた。

 試合後の囲み取材では、主催側が疲労を考慮して椅子を用意した。12イニングを1人で投げ抜き、奪った三振は21個。194球を投じた体に、疲労がないと言えばうそになるだろう。

 それでも、会見場所に現れた佐々木は「立ったほうがいいです」と気丈に語り、長い両足でしっかりと体を支えて前を見据えた。迎える準々決勝のマウンドについて、佐々木は「体の状態を見ながら」と言い残したが、地元の仲間と駆け抜ける高校最後の夏を終わらせるつもりはない。

「明日(22日の準々決勝の久慈戦)は連戦になりますけど、チーム全体で戦えば勝てると思うので、全員で勝ち上がっていくだけです」(佐々木亨)

※週刊朝日オンライン限定記事