八回裏2死、盛岡四の3番岸田への3球目に球速160キロを計測した大船渡の佐々木朗希(C)朝日新聞社
八回裏2死、盛岡四の3番岸田への3球目に球速160キロを計測した大船渡の佐々木朗希(C)朝日新聞社
延長十二回表無死一塁、大船渡の佐々木朗希は右翼席に本塁打を放ち、三塁ベースを回る(C)朝日新聞社
延長十二回表無死一塁、大船渡の佐々木朗希は右翼席に本塁打を放ち、三塁ベースを回る(C)朝日新聞社

(21日、高校野球岩手大会4回戦 大船渡4―2盛岡四)

 勝ち名乗りを上げる校歌を歌い、一塁側スタンドに陣取る応援団を目の前にした瞬間、大船渡のエース・佐々木朗希(ろうき)は思わず感極まった。

「負けたら終わりなので、すごいプレッシャーとかがあったんですけど、その中で勝ち切ることができたので、よかったなと思って」

 苦しさと喜びが詰まった、勝利の涙だ。勝って泣くのは「初めて」だった。

 今春の岩手大会準優勝校にして今夏の第2シードである盛岡四を相手に、先発マウンドの佐々木は序盤から力んだ。

「初回から力が入ってしまって、いいボールがいかなかった。自分のボールが投げられなかった」

 一回裏の最速は154キロ。二回裏には、今大会自身初となる被安打を浴び、しかも連打を食らって無死一、二塁。ピンチが余計に佐々木の体を刺激しただろうか。その時点での今大会最速となる156キロを計測したのは、得点圏に走者を置いた直後だった。三回裏には、2死から連打を浴びて再び一、二塁のピンチを背負う。「自分のボールが投げられなかった」結果だった。

 だが、中盤からは佐々木本来のピッチング。春から夏にかけて取り組んできた「緩急の勝負」に徹して三振の山を築いた。四回裏は三つの空振り三振。五回裏には、盛岡四の2番打者である高見怜人を最後は外角高めの157キロのストレートで空振り三振に仕留め、前半を無失点に抑えた。

「力感がなく、脱力して投げられていた」

 佐々木のピッチングをそう評したのは大船渡の国保陽平監督だ。中盤からの姿が、佐々木にとって、さらに指揮官にとっても理想のピッチングスタイルだった。

 その流れの中にあった八回裏の1球――。

 盛岡四の3番打者、右打席に立つ岸田直樹との勝負の場面だ。変化球を連投して簡単に2ストライクと追い込むと、3球目は外角低めに制球されたストレートだった。

 捕手・及川恵介のキャッチャーミットが渾身(こんしん)の一球を受け止める。その直後、センター後方の電光掲示板にスピードが表示されると、岩手県営野球場に押し寄せた多くの観客から歓声が沸いた。

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大谷翔平と並ぶ160キロ