■「サーファーカット」と徳仁皇太子さま
同時に、徳仁皇太子の人物像も、「温厚」「真面目」といった漠然としたイメージが多いことに気がついた。「ナルちゃん憲法」や「柏原芳恵のファン」といった印象の強い話もあるが、幼少期や学生時代で止まっている。大場さんが、御理髪掛を拝命したのは、徳仁皇太子が47歳のときだ。
「数年で50歳を迎えるにもかかわらず、素顔があまりにも知られていない。勤勉、実直、穏やかといった優等生の表情というのはわかりにくいもので、必然的に人柄が国民に伝わりづらくなってしまう」
徳仁皇太子は、遠からず次の天皇となる人物。日本の象徴となる方にふさわしい髪形とは何だろう──。大場さんは、答えを出せないまま、東宮御所の理髪室に通い続けた。
そうしたなか、サロン「OHBA」のディレクター古中美どりさんが、
「分け目の位置と前髪のボリュームがポイントでは」
と口にした。
分け目を真ん中に近づけると同時に、髪全体をなでつけるスタイルから前髪をふんわりと立ち上げて、動きとボリュームをつける。つまり、カジュアルさと若々しさを、徳仁皇太子のイメージに加えてみては、という提案である。
ご本人にすすめるからには、責任がある。次の調髪の日に間に合うよう、スタイリング剤や前髪の立ち上げ具合について、研究を重ねた。
毎月、東宮御所に伺うのは、たいてい平日の日中。大場さんは、理髪室に現れた徳仁皇太子にむかい、言葉を慎重に選びながら、こう提案した。
「秋篠宮さまも真ん中に近い位置から、分けておられます。髪を後ろにとかしたあと、左右に落ちるのが自然な分け目です。殿下も、思い切って分け目をずらして、全体をふわっとさせた感じでもよろしいのでは」
徳仁皇太子は、ふぅーむ、といった表情を見せたあと、明るい声で「いいですよ」と快諾してくれた。
調髪を終えた大場さんは、こう説明した。
「サーファーカットではないのですが、真ん中に近い位置に分け目をもってきて、前髪にも少しボリュームを出して軽くしました」