『GUITARHYTHM VI』には、昔からのファンが歓喜するナンバーがある。「Thanks a Lot」だ。この曲で、布袋は元BOOWYのメンバー、高橋まこと(ドラムス)、松井常松(ベース)と、31年ぶりにレコーディングを行った。

「二人が昨年のツアーを観に来てくれたのがきっかけです。まこっちゃん(高橋)は東京公演、松ちゃん(松井)は群馬・高崎公演でした。握手をした手が力強くて、また一緒にやりたい気持ちが素直にわき上がりました。二人をロンドンでのレコーディングに誘うと、まこっちゃんは即OK。松ちゃんは少しベースから離れていたみたいですが、しっかりと準備をしてきてくれました」

 この「Thanksa Lot」は、布袋が歌詞を書いている。

「自由になれよ」

 というテーマ。思い出に感謝して明日に挑む気持ちが歌われる。3人の再会にふさわしい内容だ。

「曲も歌詞も3人が生き生きと演奏できるイメージで書きました。僕がつづった言葉に、すべての思いを込めました。自分らしく生きること。倒れても起き上がって胸を張って、また明日に向かうこと。僕たちのヒストリーを思って、書きました。“僕たち”とはBOOWYだけではなく、リスナーも含めての、僕たちです」

 レコーディングは高橋のカウントでスタートした。

「まこっちゃんのカウント、31年ぶりですよ。やっぱり、じんときましたね。BOOWYは『GUITARHYTHM』より前の、ギタリストとしての僕の原点ですから。二人が生む武骨なまでにシンプルなリズムがあったからこそ、僕のギターはカラフルに、自由になれた。それを再認識しました」

 懐かしく、感慨深かった。

「野球部やサッカー部の仲間が何十年ぶりに集まって試合をしたり、バイク仲間と何十年ぶりに集まってツーリングをする感覚に近いかもしれません。3人で音のラリーをすることで、31年間変わらなかった気持ちや様々な思いを、言葉以上に音で交わせたと思う。本当に楽しかった。この曲は『GUITARHYTHM VI』のほかの12曲とは少しテイストは違うかもしれません。でも、12曲をしっかりと支えてくれています」

 高橋や松井も布袋と同じ気持ちになれたようだ。

「レコーディングの後、近所のパブで、ビールで乾杯しました。僕たち3人とも、やっぱり緊張していたと思うんですよ。懐かしさに浸るのではなく、『今』の僕たちの音を出したかったから。レコーディングはそれぞれの持ち味をうまく引き出せたと思います。あの日のビールの味は格別でしたね」

 布袋は8月まで「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を行い、その後はまたロンドンでの音楽生活に戻る。

「ロンドンのどでかい会場を満杯にするとか、UKチャートで1位になるとか、そんな大きなニュースはまだ届けられていないけれど、ヨーロッパツアーを重ねる中で見えてきたことは間違いなくあります。今の自分だからこそできる音楽をしっかりとやっていきます」

 日本のギターヒーローから世界基準にステージを上げた布袋の活動から、今後も目が離せない。(ライター・神舘和典)

週刊朝日  2019年6月28日号

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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