「大出血の被害者を救うには、救急車が到着する前に1秒でも早く血を止めることが重要です。一般市民でも正しい知識を持っていれば、多くの命が救える。東京五輪などを控えてテロの危険性が高まるいまこそ、市民が救護能力を身につけるべきです」

 基本的な止血法としては、傷口をガーゼやハンカチなどで直接強く押さえる「直接圧迫止血法」がある。手足などで出血が激しい場合は、帯状のものを使用する「止血帯止血法」もある。

 今回の事件では、犯人を含め首に傷口がある人がいた。こうしたケースでは、傷口より心臓に近い動脈(止血点)を手や指で圧迫して血液の流れを止める「止血点圧迫止血法」が有効だ。照井さんは具体的に解説する。

「親指などで首の骨のほうに向かって血管を押し、圧迫して血流を止める方法です。硬い骨に血管を押しつけて止めるイメージです。総頸動脈(けいどうみゃく)はのど仏の2センチくらい横にあり、触れば誰にでもわかります」

 今回のように刃物による深い傷では、ポリ袋を活用すればいいという。
「深く切られて傷口が開いている場合、脳や心臓、肺につながる血管に空気が入らないように、ポリ袋を強く傷口にあてます。コンビニのレジ袋で十分です。その上で止血点圧迫止血法を行い、救急車を待つ。空気が入ってしまうと血管が詰まり、脳梗塞(こうそく)などを起こしてしまうこともあります」(照井さん)

 こうした止血法は照井さんの著書、『イラストでまなぶ!戦闘外傷救護』で紹介されている。

 市民が受講できる講習会も、各自治体で行われている。人工呼吸や胸骨圧迫(心臓マッサージ)などの心肺蘇生法や、AED(自動体外式除細動器)の使い方、止血法などを教わることができる。
 横浜市消防局では2018年度、個人向けの講習会を150回開いた。東京消防庁では、例年約25万人が受講しているという。

「こういった事件が発生した時に、何かできたのではないかと思う人もいます。身近でそういうことが起きるかもしれないと考えることが、受講するきっかけになる場合もあります」(横浜市消防局の担当者)

 とはいえ、いざという時に救命活動に協力することは、冒頭で説明したように簡単ではない。東京消防庁では、「一番重要なのは自分の安全を確保すること。交通事故の現場などでは特に周りの安全を確認してほしい」と呼びかける。

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秋葉原の無差別殺傷事件に遭遇した人の悔やむ思いとは