新卒一括採用から通年採用への流れも実は同じ文脈で理解できる。会社に就職してから仕事の内容が決まる一括採用ではなく、先に個々の仕事ありきで、その仕事をこなせる能力の高い人材だけを採用したいというのが企業側の思惑だ。つまり、能力の低い学生は入り口で切り捨てという意味になる。

 今、政府の会議では、事実上の解雇規制の緩和(限定正社員という新たな雇用形態を設けてより簡単にクビにできる制度を導入する)という、これまでタブーだったテーマも本格的に議論されている。

 これらは全て、労働者をより厳格に選別し、ダメな労働者は「切り捨てる」という方法だ。

 しかし、よく考えてみると、生産性向上にはもう一つ方法がある。それは、高い労働条件でも儲けられるビジネスを切り拓けない経営者をクビにして、それができる有能な経営者と交代させることだ。「生産性革命」は、労働者に求めるのではなく、経営者にこそ求めるべき課題ではないだろうか。

週刊朝日  2019年6月7日号

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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