幕開けの「でっどえんど」。トランペットを中心にしたブラス・セクションのジンタ風の演奏は、葬送曲のようにものがなしく、おごそかだ。崖っぷちに追い込まれた老年世代の思いを志磨は神妙に歌う。マーチ風の演奏、ヴァイオリンの調べをバックにした「ニューエラ」も、最果ての地にたどり着いた老年のカップルを歌ったもの。死んだら“星になれるのよ”という歌詞が耳をひく。

 「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」は軽快なシャッフル調。平成も終わり、昭和の繁栄も遠い昔。“わるいぼくらの わるいおこないを 神よ裁け~歌も楽しや ほろびの道”と自嘲的で皮肉な歌詞による。
 リズミックなスカ・ビートの「チルってる」。タイトルはチル・アウトに由来するゆったりくつろぐという流行語だが、享楽の快感を味わい続けたい欲望を歌う。

 スカ・ビートとロマ音楽をミクスチャーしたスピーディーな演奏によるのが「プロメテウスのばか」。“神は死んだ そう 崇めるは 紙と金貨”と“神”と“紙”を掛けて“神”の存在を否定する。

 フラメンコ風のギター演奏に始まり、情熱的な演奏が展開されるのが「カーゴカルト」。“神”への不信、老いることへのおびえとともに“気の抜けたビールで 今夜もグダってる”と快楽の享受に逃れる様が歌われる。

 「もろびとほろびて」はアルバムのハイライト曲だ。アンビエント・テクノ風にヒップ・ホップ・センスも交え、ラップ・スタイルで“核兵器じゃなくて 天変地異じゃなくて 倫理観と道徳が ほろびる理由なんてさ”と歌っている。最後には“ぼくらの暮らす この国で オリンピックがもうすぐある”と。日本の繁栄をもたらした1964年以後とは異なりそうな今回のオリンピック以後を案じるかのようだ。

 そしてブレヒト風の演奏で、あいまいな関係の二人の別れ、旅立ちを歌った「Bon Voyage」、安らぎを覚える「クレイドル・ソング」、ピアノをバックにし歌とSEのノイズが混在する「人間とジャズ」でアルバムは締めくくられる。

 曲名、歌詞に織り込まれた故事や映画名の象徴的な意味に戸惑いながら、明快なメロディー、斬新な演奏、歌唱の巧みさに引き込まれ、歌の意味を探求したくなる。自信に満ちた力作、傑作だ。

 アルバムの表題について志磨が語るには、移動民族のロマの音楽が土地土地に根付いて発展を遂げてきたのと同様に、初めて世界中に広まったのが“ジャズ”であり、本作を象徴する“人類の音楽”というニュアンスもあって名付けたという。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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