また、「親に恥をかかせるのはご法度」というのもちょっと違うと思う。子どもの自由を奪うことになりかねませんから。子どもの人生は親のものではありません。例えば性的マイノリティーの子どもを恥だと思う親がいますが、問題は恥だと思う親のほうにある。

 教育の本当の目的は、自分自身を大切にし、自分で考えて行動できる自由な人間を育てることだと私は思います。自分を大切にできなければ人を大切にすることもできない。道徳の授業で「人に親切にしなさい」と教えるより、ボランティア活動をする機会をつくってやるほうがよっぽどいい。誰かのために何かをして喜んでもらうことが、自分の喜びにもなる。そうした経験を重ねることで、自発的な行動につながっていく。何のために学ぶのかという自覚も、自ら考え行動し、様々な経験をする中からしか得られないでしょう。

 小さな子どもにはたっぷり愛情を注いでかわいがるということが何より大事。基本的な生活習慣を身につけさせたり、我慢することを覚えさせたりすることも必要ですが、上から押さえつけるのではなく、子どもが自ら考えて行動するのを手助けすることが大事です。自分で考えて行動するということは決して自己中心的でもワガママでもない。それは本当の意味で自由だということです。自由でなければ人にやさしくもなれない。そして自由な人間こそが、より良い社会の形成者になれるのだと思います。

週刊朝日  2019年5月24日号

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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