日本人の過剰な清潔志向が指摘されて久しい。「スマホの画面はトイレの便座より汚い」という英国保険会社の報告に震撼した人も少なくないだろう。スマホを使用後、手をゴシゴシと洗っていないだろうか。バイ菌に対する恐怖感を植えつけられ、ドアノブや電車のつり革を握れない人さえいる。
ホームセンターやドラッグストアには抗菌グッズがあふれる。多くの人が消臭除菌スプレーをベッドやソファ、カーテンにシュッシュッと熱心にかけている。しかし、行き過ぎた「キレイ好き」が、アレルギーや重大な病気を招くリスクもあるのだ。
『清潔はビョーキだ』『手を洗いすぎてはいけない』などの著書がある東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎さんは、感染免疫学や寄生虫学が専門。早い時期から日本人の“超清潔志向”に対し、警鐘を鳴らしてきた。藤田さんが語る。
「日本人のゆがんだ清潔志向が始まったのは、20年ほど前です。その度合いは今も強まるばかりです。日本の生活環境には、直ちに人の命を奪うような危険な病原菌はいません。ところが、身の回りの、私たちが生きていくために必要な細菌まで排除しています。風邪やインフルエンザなど感染症予防のため、手洗いが推奨されています。手を洗うのはいいことだけれど、人間の皮膚は洗いすぎると、かえって汚くなるのです」
外敵から皮膚を守っているのは、毛穴から分泌される皮脂。これが皮膚を薄く覆い、外敵の侵入を防ぐバリアーになっている。さらに、人間の皮膚には表皮ブドウ球菌やニキビ菌など約10種類ほどの皮膚常在菌がすみつき、脂肪酸の膜を作っている。pH5.4~5.7の弱酸性を保ち、病原菌を寄せつけないようにしているのだ。
ところが、せっけんでゴシゴシと洗いすぎてしまうと、皮脂膜や脂肪酸を失ってしまう。病原菌が付着しやすくなるばかりか、皮膚が乾燥肌になる。湿疹や炎症の引き金になり、アトピー性皮膚炎の原因にもなるという。では、藤田さんが指南する手の洗い方とは?