林:みんな「難破船だ」って言うけど、私は何とかこれを別の形にしたいなと思ってます。難破する前に。

伊藤:無理ですよ。それがまたおもしろいんじゃないですか。どうせ文学なんて、作家が死んで数年は売れるけど、そのあとはみんな忘れるんだもん。死んじゃったら「あとは野となれ山となれ」で。

林:「消えていくのがおもしろい」なんて、そんなふうに思うところがすごいなあ。私なんかどうせ消えていくと思うけど、「それじゃお墓をここにつくって」とか、非常に世俗的なことしか考えないから。

伊藤:お墓に入るの? 誰の?

林:私がつくったお墓。都心の有名墓地に。すごく高かった。

伊藤:失礼ですけど、いくらですか。

林:高いですよ。コショコショ……。

伊藤:うそ! ア~ハッハッ。私なんて、親の骨、海にまいたもん。父は「海にまいてくれ」って言ってたんですよ。母と、飼ってた犬の骨もそのままだったから、父と母の骨と、犬の骨も一緒にまいたの。

林:どうやって粉にしたんですか。

伊藤:コーヒーミルで。いま使ってるのでいいかなと思ったけど、そのあとコーヒー挽くのイヤだなと思ったんで、新しいのを買ってきてガーッとやって、こまかいパウダーにして、それを骨壺に入れて、ガムテープでぐるぐる巻きにしてアメリカに持って帰ったんです。それを海辺に持っていって、少しずつまいたの。

林:ほぉー!

伊藤:花咲かじじいみたいな感じ(笑)。まき終わって、次の日もう一回行ってみたら、海って干潮でずーっと引いていって、満潮でまた戻ってくるでしょ。そしたら父と母と犬がまた戻ってきた感じがして、これはいいわねえと思ったの。自分もそうされたい。

林:伊藤さんの話を聞いてると、死んでいくときもおもしろそうな感じがする。

伊藤:おもしろいよ。超おもしろい。

林:年とっていくのもおもしろい?

伊藤:まあね。今のこの頭とこの能力で20代のころの肉体があったら怖いものなしだな、と思うけど。

林:私も男の人をいくらでもだませてたなと思う。ほんとに悔しい。こんなに知恵をつけたときには、もうばあさんになってたなんて(笑)。

次のページ