パンキッシュな「夢追いベンガル」は衝動的な思いを勢いに任せて表現した“青春ロック”。andymori、小山田壮平へのリスペクトを込めたという。“セックスばっかのお前らなんかより 愛情求め生きてきてんのに ああ 今日も愛されない”。そんなふてぶてしい表現があいみょんらしい。

「今夜このまま」はドラマ『獣になれない私たち』の主題歌。アニメ映画『あした世界が終わるとしても』の主題歌も収めている。「GOOD NIGHT BABY」はヒップホップ調の軽快でリズミカルな曲だが、別れの際の後ろ姿がもたらす切なさ、後ろ髪ひかれる思いを歌っている。

“後悔を5回ため息3回”と歌い出す「from 四階の角部屋」は、最初から結末が見えている恋愛劇のもどかしさを描いている。オルタナ・ロック風のざっくりした演奏をバックに、捨てばちでパンチの利いた歌いぶりは彼女ならでは。

 J―POPの先達への敬意とともに歌謡曲的なメロディー・センスが見え隠れするのが、あいみょんの持ち味。本人は“日本人のDNAは歌謡曲から逃れられない”としたうえで、こう語る。

“意識して歌謡曲っぽくするのはいくらでもできるけど「だったら、昔の曲聴くわ」になっちゃうと思うんです。そうじゃなくて「懐かしい気持ちになる」とか「聴いたことがある気がする」っていう感覚にさせることが大事、歌謡曲をやり切らないことが大事”

 米津玄師の存在が“すごく大きくて、悔しい気持ちにさせてくれたから、勝手にありがたく思ってます”とも。したたかである。

 本アルバムでは、メロディーも歌詞もほぼ同時進行で思いつくままギターの弾き語りで作ったデモをもとに、サウンド・プロデュースを田中ユウスケ、関口シンゴらに任せた。ソングライターとして、またヴォーカリストとして、多彩な表現を見せている。旬のアーティストとして、現在進行形の今、これからの活躍への期待を抱かせる頼もしいアルバムだ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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