──紘は毎日コツコツと同じことをする地味な人間です。共通点はありましたか。

 紘は、炭には興味があっても人に興味がない。特に自分に(興味が)全くない。だから他人にもない。風変わりというか、普通のようでいて、やっぱり変わっている。家族に対しても興味がないから、注意が行き届かない。彼らに何が起きているか全く気がつかないんですよね。その上、自分の魅力にも全く気がついていない。自分に無頓着な人間って、僕には信じられないし、今までに演じたことがないから、挑戦しがいがありました。そう考えると、どこにでもいるように見えて、変。どこにでもいるような人に見えてちょっと違う。

──池脇千鶴さん演じる奥さんの初乃との関係も、今までの稲垣さんが演じてきたスタイリッシュな男女関係とはずいぶん違います。夫婦の寝室というか、ラブシーンもありましたけど、生活感がすごかったです。生々しいというか。

 ねえ(笑)、僕もあの場面は、生々しく感じました。全体的に生活感のある映画ですよね。いろいろな映画がありますけど、今はけっこう非現実的な世界、シチュエーションとかキャラクターを楽しむものが多い時代ですよね。でもこういう日常を描いた文学的な作品って、いいと思うし、映画だからできるし、こういう作品はもっとあっていい。いや、あるべきだ。こういう映画を映画ファンとしても見たいし、そういう作品に参加できて、携われて本当によかった。

──紘は家族に興味がない男ですが、問題が起きたことで、彼なりに向き合い始めます。でもその矢先に、予期せぬことが起きてしまう。

 そうなんですよね……。彼も父として、一家の主としてどう生きていくべきか、っていうことをようやく学んで、明日からまたこの場所で生きていく、って決めたところで、ああいうこと……ネタバレになるんで詳しくは言えないですけど、悲しい出来事が起きてしまう。

──でも、不思議と暗くはならない結末でした。

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