天野:今の統計上はそうなんです。ですがこれからますます延びると思いますよ。がんが薬で治ることが多くなったし、70歳で手術を受けた人は、あと15年ぐらいは精神的にも解放されて元気です。手をかけたら手をかけた分だけのリターンがある時代になりました。

林:そうなんですか。

天野:でも今、医療経済が逼迫しています。だから途中で強制的に抗がん剤を打ち切られるような状況も出てくるかもしれないし、心臓の血管内治療なんかも、相当金額がかかるものもありますからね。それを「あと1年生きればいい」という85歳の人にやるわけですよ。それが本当にいいのかどうかという議論が生じてくると思います。厚生労働省の関係者は「高額医療と裾野の部分を整備しないと、医療費自体がもちません」と言ってますからね。

林:医療財政を圧迫するオプジーボ(体内の免疫細胞ががん細胞を攻撃し続ける治療薬)なんか、「やってほしい」という人に簡単にやっていいのかどうかという議論もあるみたいですけど。

天野:薬局に行って薬を買って飲めば治る病気は、病院にかかったら自己負担ということにすると、その部分を難しい医療のほうに充てることができるんですよ。今は、軽症例で保険が使われている部分があまりに多い。むろん、開業医が全面的に反対してくるでしょうけど。

林:なるほどね。

天野:少し前くらいから専門家は「年金を70歳支給にすれば、今後10年、医療費は何とかなる」と言って、「定年70歳」ということを自民党が言いだしたじゃないですか。あれはそれを後押しする世論をつくろうとしてるんだと思います。

林:私は年金は70歳から支給でもいいと思うんです。

天野:60歳でもらっている雀の涙の年金を69歳まで出さないで、「それまで働いてください」ってやると、その分の年金費用が医療福祉にドンとのせられるという考え方もありますからね。

林:私たちのときにまた一波乱、二波乱ありそうですね。

天野:あと15年ぐらいして、70代後半から80代になってくると、いま医者になって研修が終わった30歳ぐらいの連中が、治療の選別をし始める。そういう時代が来ますよ。

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