林:いいほうに選別されるように、頑張って仕事をしてお金をためなきゃ……。10年ほど前に、順天堂大は学費を安くしたために多くの受験生が集まり、その結果レベルアップして、慶応の医学部に並ぶぐらいの名門になっちゃったそうですね。

天野:名門というのはノーベル賞研究者を出したり、新薬や新しい手術の発見をする医師が多くいるということのほうが重要ですから、受験で判断しちゃいけないと思いますよ。最近は受験する側も、医学部熱といっても上から下まですごく広がりがあります。われわれの世代より、今の受験生のほうがたぶん十数倍入りやすいんです。定員が増えて、同世代人口が少ないので。

林:そうなんですか。ますます難しくなっていると思いましたけど。

天野:そんなことないと思います。だって若い人の質が落ちてますから。入学した人間がそのまま卒業できない状況がけっこうあります。国家試験合格とか具体的な目標設定をして、そのための教育システムの構築に努めていないところが多い。西日本の国立なんかは、入るときの偏差値は高いんですけど、10人に1人以上が国試に落ちるんですよ。東大も一緒です。最高偏差値で入って、毎年国試に10人ぐらい落ちてますから。

林:そうなんですか。

天野:課題に対する責任感がない人が医者になったってダメですよ。東大医学部も今は毎年100人ぐらいが卒業して医者になりますけど、指導者として本当にふさわしいのは上の15人ぐらい。さらにその中で日本を牽引できる人の要素は、他人をリスペクトできるかどうかだと思います。ほとんどが自分のできないことは他人もできないと思い込んでいる。自分ができなくてもできる他人を前面に出せる東大卒には本当に頭が下がります。

林:順天堂の場合は、先生の“神の手”を慕って、研修医がいっぱい来るわけでしょう?

天野:いや、そのような理由では来ないです。外科は修業が大変という見方が根強いですから。今の医学生はそんなつらいことを自分からやりたいと思わないですからね。手術の現場や中身がつらいんじゃなくて、体制を維持する姿勢とか、患者さんに対する向き合い方とかが受け入れられないんです。今の若い人は、そこそこでいいと思ってる人が多い。医者になって、勤務医で「年収2千万~3千万円もらえればいいや」ぐらいで、その上を目指す人がいないんです。私から見れば、ですが。

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年1月18日号より抜粋