いつ金融機関が一括弁済を求めてくるかもわからない。そこで週末には警備員のアルバイトに出て、借金の返済に努めているという。

「金融機関から返済の増額を何度か求められています。怒った妻はほとんど口をきいてくれず、週末もバイトで家にいないので、家庭はすさむばかり。こんな借金があるなら父の遺産を相続するんじゃなかった……」

 Yさんも悔やむ日々を送っている。

 債務者問題に詳しい椎名麻紗枝弁護士はこう話す。

「バブル時代に大きな借金を背負い、金融機関も破産となれば回収できなくなるのでと、月の返済を一定額で合意。だが、当事者が死亡するなどで借金が相続されると、合意は消滅だと、一括返済を要求するというパターンが見受けられる」

 親の相続、借金での相談で椎名弁護士を訪ねてくる人は年々、増えている。

 相続人の保護が重視され、借金があることがわかった時点を熟慮期間の起算点として、それから3カ月以内に相続放棄を行えば認められるという。

「遺産相続はいいことばかりではない。とにかく、親が元気なうちに詳細を把握して対策を立てることが重要です」(椎名弁護士)

(今西憲之)

週刊朝日  2019年1月18日号

著者プロフィールを見る
今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

今西憲之の記事一覧はこちら