親の“負動産”に注意を…… (※写真はイメージです GettyImages)
親の“負動産”に注意を…… (※写真はイメージです GettyImages)

 親から遺産を相続したと喜んだのもつかの間、思わぬ落とし穴にはまる人々がいる。親が生前、打ち明けていなかった“負の遺産”が発覚。金融機関が相続人に一括返済を迫るなどトラブルが相次いでいる。「相続しなければよかった……」と後悔する前にできることとは?

「相続したばかりに、地獄のようなところにまで追い込まれるとは思いもしなかったです……」

 こう肩を落とすのは、横浜市の会社経営者、Sさん。数カ月前に、借金の督促とそれによる心労で、胃潰瘍になり2カ月間入院。絶食の日々が続き、体重は30キロも落ちた。この取材中も「胃が痛くて、椅子の背にもたれかからないと、座れなくて」と、のけぞるような姿勢で話をする。

 Sさんの一族は横浜では少しは名が知られた地主だった。Sさんの父は土地などの資産を守りながら、戦後に店を経営。

 それがバブル当時、メインバンクだった大手メガバンクの支店長が直々にやってきて、地元のH不動産会社に迂回融資するために、名義を貸してほしいと依頼されるようになった。

 バブル時代、不動産融資が青天井で膨れ上がり、土地が高騰。抑制しようと政府が打ち出したのが総量規制。融資できる金額に上限を設けた政策だ。

 これまで無制限に融資を受けてきた不動産企業にとっては大きな打撃で、銀行にとっても融資して高金利で儲けるビジネスモデルが破たんしかねない危機だった。

 そこで不動産と違う業種の会社に名義を借りて迂回融資し、急場をしのごうとした「脱法行為」であった。店が本業の父にとって、不動産会社への迂回融資なんて別世界の話。ずっと断ってきたが、Sさんによると、前出の支店長が連日やってきて「絶対迷惑をかけない」と懇願され、根負けして名義貸しに同意したという。

 だが、不動産の暴落でH社は経営が立ち行かなくなった。メガバンクはH社から回収できないとわかり、Sさん一族の資産に目を付けた。相続対策だと、Sさんの父の土地にマンションをH社に建設させて、その収益を回収しようとした。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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