2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝性乳がんの可能性があるという理由から両側の乳房の予防切除を受け、わが国でも大きな話題となった。彼女は、15年には卵巣も摘出した。この遺伝性乳がんのタイプが、HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)という病気で、乳がんのみならず、卵巣がんも発症しやすいということがわかっていたためだ。HBOCは、乳がん全体の5~10%くらいの人で発症する。

 本人を中心に、遺伝の確率を見ていくと、両親、兄弟姉妹、子どもで50%(第1度)。祖父母、おじおば、甥姪で25%(第2度)、曾祖父母、大おじ大おば、いとこで12.5%(第3度)となる。

 そして、この変異を持つ女性が、一生のうちに乳がんを発症するリスクは一般の人の9~12倍で、卵巣がんでは8~60倍にもなる。

 遺伝性乳がんは、通常の乳がんより10~15歳若く発症するという特徴もある。男性でも乳がんや前立腺がん、膵がんを発症する場合がある。

 下記に示したチェックポイントが一つでも当てはまるとHBOCの可能性があるので注意が必要だ。

「チェックポイントに該当すると思っても、冷静に考えましょう。HBOCかどうかの検査を受ける前には、必ず医師に相談した上で、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーから遺伝カウンセリングを受けます。本人のみならず家族にも関わってくる問題なので、特に乳がんを発症していない人は、病気を恐れずに向き合いましょう」

 そう説明するのは、日本乳癌学会理事長で、杏林大学病院乳腺外科教授の井本滋医師だ。

 本人だけではなく、家族への将来的な不安、経済的な面(遺伝学的検査は自費で約30万円)ほか、考慮すべき点はさまざまある。

「たとえ検査を受けないとしても、チェックポイントに当てはまる場合は、定期的な観察が必要です。医師とよく相談して20歳代から乳がん検診を定期的に受けたり、子どもを授かりたい人は40歳までに妊娠・出産を計画したりという人生設計も必要になります。ただ、あまり深刻にならずに考えるべきです」(井本医師)

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