がん研有明病院副院長・乳腺センター長 大野真司医師(左)/杏林大学病院 乳腺外科教授 井本 滋医師(右)
がん研有明病院副院長・乳腺センター長 大野真司医師(左)/杏林大学病院 乳腺外科教授 井本 滋医師(右)
遺伝性乳がんのチェックリスト(左)、(週刊朝日 2018年12月21日号より)
遺伝性乳がんのチェックリスト(左)、(週刊朝日 2018年12月21日号より)
乳がん データ (週刊朝日 2018年12月21日号より)
乳がん データ (週刊朝日 2018年12月21日号より)

 女性の11人に1人が発症し、働き盛りの40歳代女性では死亡率がトップの乳がん。ただし、早期発見すれば、予後がよく、治療の選択肢も豊富だ。またここ数年、乳がんの話題の中心は、約1割を占める遺伝性乳がんだという。

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 乳がんは、あらゆるがんのなかでも生存率が高い。治療の選択肢も多く、患者のQOL(生活の質)も良く、社会生活に復帰することも多い。しかし、長期間の治療と経過観察が必要な場合があり、長くがんと付き合わなければならない人もいる。

「最近の乳がん治療におけるキーワードは、『デ・エスカレーション』と『エスカレーション』です。無駄な治療を減らし、有効な治療は積極的におこなっていくという考え方です」

 そう話すのは、がん研有明病院の副院長で乳腺センター長の大野真司医師だ。

「臨床研究などの成果により、同じ効果が得られるのなら、患者さんの身体の負担になる治療は極力避けるようになっています。たとえば、リンパ節郭清の省略や不必要な薬物投与をしないといったことです。その一方、悪性度の高いタイプは、がんのメカニズムを解明し、最善の治療をおこない続けます。特性に合った薬を使い、分子標的薬など新しい治療薬を適切に投与するのです」(大野医師)

 以前の乳がん治療は、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、他臓器への転移の有無の度合いによって決められるステージ(病期)で治療を決めていた。しかし現在、手術後には、がんの組織型・悪性度、薬物療法への反応性などを事前に調べて五つのサブタイプに分けて、ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的薬治療を使い分ける。(1)ルミナールA型(ホルモン受容体陽性、HER2たんぱく陰性、低増殖能)、(2)ルミナールB型(ホルモン受容体陽性、HER2たんぱく陰性、高増殖能)、(3)ルミナールHER2型(ホルモン受容体陽性、HER2たんぱく陽性)、(4)HER2型(ホルモン受容体陰性、HER2たんぱく陽性)、(5)トリプルネガティブ型(ホルモン受容体陰性、HER2たんぱく陰性)の五つだ。

 BRCA1という遺伝子の変異のある乳がんの約6割がトリプルネガティブタイプで、約2割がルミナールタイプだ。また、ルミナールタイプのなかにはBRCA2という遺伝子の変異が見られることがある。これらの変異が、親から子へと受け継がれると、乳がんになるリスクがある。

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