ポールはジミ・ヘンドリックス、クリームなどの登場にも刺激されたのに違いなく、後のヘヴィ・メタルに先んじていた攻撃的で破壊的なハードなロックンロールの「ヘルター・スケルター」を手がけ、「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」や「バースデイ」といったポップなメロディーとロックンロールの魅力を持ち合わせた曲でもハードな展開を見せていた。

 そうしたジョンやポールのハードなロック・ナンバーは、今回の新たなミックスで、よりパワフルでワイルド、アグレッシヴな音になっている。

 一方、ポールの単独作品における生ギターによる曲では、シンプルさが重視され、ラグタイム調の「ハニー・パイ」、レゲエ風の「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」などは陽気で軽快な作品に仕上げられている。また、ジョンの「ジュリア」などはしっとりとした味わいになっている。

“ホワイト・アルバム”では、ジョージ・ハリソンのソング・ライターとしての躍進ぶりも注目された。傑作「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のニュー・ミックスでは、サポートのエリック・クラプトンの存在が以前よりクローズ・アップされている。この曲は、“イーシャー・デモ”の音源とともに、3枚のセッション音源とブルーレイが追加された“スーパー・デラックス・エディション”収録の“アコースティック・ヴァージョン テイク2”の切なげなジョージの歌いぶりも光っている。

 3枚のセッション音源は一部を除き、大半が未発表だ。「レボリューション1」の完成版の元になったとされる「レボリューション1(テイク18)」、「ハピネス~(テイク19)」「ヘイ・ジュード(テイク1)」「アクロス・ザ・ユニバース(テイク6)」「レット・イット・ビー(アンナンバード・リハーサル)」などのセッションは興味深い。

 マニアにとってはスーパー・デラックス・エディションは必須のアイテムだが、手軽に楽しむには3CDになる。う~ん、思い悩むところだ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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