確かに、イギリスのイーシャーにあるジョージ・ハリソンのバンガローで録音した“ホワイト・アルバム”のデモ・テープでは、4人の和気あいあいとした様子がうかがえる。

 今回の“スーパー・デラックス・エディション”と“3CDデラックス・エディション”には“イーシャー・デモ”として27曲が1枚のCDに収録されている。そのうち21曲が録音され、19曲がオリジナル・アルバムに収録された。未収録になった「チャイルド・オブ・ネイチャー」は、ジョンが後に歌詞を書き改めて「ジェラス・ガイ」として発表している。

 収録曲の大半はインドでキャンプした際に書かれた。身近にはギターしかなかったことから、生ギターで作曲。デモも、生ギターを主体にパーカッションを加えたもので、フォーキーな印象だ。もっとも、アルバムの完成版ではポールの単独録音曲の「ブラックバード」、ブラスが加えられた「マザー・ネイチャーズ・サン」などを除き、演奏、サウンドは改められた。

 ザ・ビートルズにとってデモ・テープの制作は初めてだったことに加え、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』録音時におけるような“綿密に計画されたレコーディングのプロセスは姿を消し、スタジオで曲を練り上げ、複数のテイクで実験をするのが当たり前の手順”だったとジャイルズ・マーチンがふれている。今回、明らかになった未発表セッションには“テイク 102”とエンジニアがカウントした曲もある。

 バンドとしてのアンサンブルの充実を物語る曲の一つが「アイム・ソー・タイアード」だ。ジョンとポールのコーラスを含め、原点に立ち戻る意図がくみ取れる。

 当時、イギリスで最新のトレンドとなっていたブルース系のグループの台頭に刺激されたと思われるのがジョンによる「ヤー・ブルース」。歌詞では内面的な傾向を強くし、音楽的には前衛志向を濃くしていたことを物語るのが、ジョンならではの変拍子による「ハピネス・イズ・ウォーム・ガン」だ。その背景にはヨーコ・オノとの出会いをきっかけに前衛芸術などへの傾倒を深めていったことなどもあり、本作ではそうした曲も収録されていた。

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ポールが刺激されたのは…