「イノシシは海をわたり答志島に来たようだ。島にエサが少なく、以前は骨ばった姿だったが、かなり駆除して、最近はまともな姿になってきている。数も減って、観光客も安心して散歩できるようになった」

 瀬古さんによると、獲物の解体は3~4人で3~4時間かかる。男性の作業は粗っぽいが、女性は処理がきれいと重宝されている。

 最近は各地でイノシシやシカ、クマが畑を荒らし、人里に出てきて、人を襲う被害も出ている。野生動物が増えているのは、温暖化で積雪が減り、冬に死なず越冬するようになったため。また、以前は希少で保護を優先した法制面の問題もある。さらに、農林業者の高齢化や減少で農山村が衰退し、耕作放棄された果樹園や畑がエサ場となり、人がいなくなり野生動物が人を怖がらなくなったという。

 猟師のすそ野を広げる動きは大学にも出ている。早稲田大学で昨年4月、狩り部というサークルを立ち上げ、顧問に人間・環境学が専門の岩井雪乃准教授が就任した。部員は16人で、うち女性が3人。料理、ジビエ好きが多いという。

 岩井さんによると、9月初旬に千葉県君津市で「学生狩猟サミット」があった。酪農学園大学や東京農工大学、東京大学、奈良女子大学、三重大学、高知大学、九州大学など十数大学の狩猟団体が集い、狩猟や地域課題を議論した。参加者は30人ほどで女性が3分の1ぐらい。学生時代に狩猟に関心を持ったことで狩猟者になる女性も増えそうだ。

 女性狩猟者には動物好きもいる。北海道で最大震度7を記録した9月の地震の震源地近く、むかわ町で猟師をするのは本川哲代さん。小学6年生のとき家の事情で愛犬を手放し、保健所へ連れていった体験がいまも強く心に残る。猟師の高齢化や減少というテレビ報道で、シカを殺すのを見てかわいそうになったという。

 数が多くなりすぎ悪者扱いされるシカへの強い愛情が、数を減らせば悪者扱いされなくなると本川さんを猟師に駆り立てた。11年に38歳で会社を辞め、札幌で農業を学びながら銃免許を取得。「親分」と呼ぶ先輩猟師の紹介で、むかわ町に移住。親分のもとエゾシカ猟をして、「むかわのジビエ」代表としてシカの解体処理にも携わる。

「シカにはいっぱい愛情をかけていて、肉になってもいとおしい。シカを殺し食べることは、私にとって償い。食べることで体の中で生きてもらう」

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