「世の中には実にさまざまな生き方があり、さまざまな人間がいます。今後の人生で、時にはびっくりするほど自分と違うタイプの人に出会うこともあるでしょう。でもその人の発言などにいちいち傷ついてはダメ。『こういう人もいるのだ』と受け入れたうえで、割り切ることが大切なのです」

 職場でのメンタルヘルスケアにくわしいのは、日本メンタルヘルス講師認定協会代表理事の見波利幸さんだ。

「職場は基本的には毎日出勤する場所ですから、自分がどんな立場でも不用意に人の心を傷つけるような発言は絶対にしないことです」

 だが仕事を進めていく上ではどうしても、上司から部下へ厳しい言葉を伝えないといけないときもある。

「ただ、部下が失敗したときでも開口一番に侮辱したり、攻撃したりするのはダメですよ。人は自分の価値が下げられたときに、めげてしまうのです。上司という立場にある人は、部下の価値を認めている発言をしたうえで、部下を指導することが大切です」

 また逆に自分が上司から何か言われたときは、どうしたらいいのだろうか。

「一番有効なのは、『認知』を変えることです。たとえば仕事でミスをして『おまえ、何をやっているんだ』と職場で言われたとき、『ああ、俺はいま皆の前でさらし者にされているんだ』などと一方向で物事を考えないことです。仕事でミスを指摘されたということは、『よし、これでまたひとつ学べたぞ、ラッキー!』と考えることもできるわけです。決してプラス思考になりなさいという話ではないんですよ。マイナスの感情をいきなりプラスの明るい感情にもっていくのはとても大変なことですからね」

 大事なのはそこで最悪だ、もうダメだとマイナスの認知でコリかたまらないこと。

「確かにピンチかもしれない。でも本当にもう手立てはないだろうか。最悪の状態だろうか。少し自分の状況を俯瞰して、認知を変えるクセをつけると心が折れることも少なくなると思います。これは上司から何か言われたときだけでなく部下から何か言われたときでも使えるメソッドです」

 仕事をしていれば、思いどおりにならないで落ち込むことも多々ある。

「そんなときも、ひとつの偏った考え方だけを継続しないことです。『認知のゆがみ』をなくすことは、鬱の予防にもつながるのです」

 やはり軽やかに生きていくには、思考の「柔軟性」が最も求められるものなのかもしれない。(赤根千鶴子)

週刊朝日  2018年11月9日号より抜粋