では、75歳以上ではどうか。ガイドラインでは「高LDLコレステロール血症に対する一次予防効果は明らかではない」としている。『薬のやめどき』の著者で、長尾クリニック(兵庫県尼崎市)院長の長尾和宏さんは、脂質異常症の薬の中でも、スタチン系の薬は控えたほうがいいと考える。ロスバスタチン(クレストール)、プラバスタチン(メバロチン)、アトルバスタチン(リピトール)などだ。

「75歳以上の患者さんに使用しても、心筋梗塞などの予防にメリットは認められないのです」(長尾さん)

 その根拠として、イギリスの医学雑誌「BMJ(British Medical Journal)」に今年9月掲載された論文を紹介する。スペインで行われた研究で、電子カルテでスタチン系の薬を使っている75歳以上の患者と、それ以外の75歳以上の患者を抽出して比較。その結果、心筋梗塞の予防効果はないことが判明した。糖尿病を合併する75歳以上の患者では効果があったものの、その効果も85歳で弱まり、90歳では認められなくなった。

「オーストラリアでも、70歳以上を対象に、スタチン系の薬の有用性を調べる前向き試験が進んでいます。その結果次第ですが、今は糖尿病の患者さんを除き、75歳以上の元気な人に使うのは控えたほうがいいでしょう」(同)

■不眠症

 次は不眠症。高齢になると深い睡眠が減ることで睡眠の質が低下し、夜中に何度も起きる「中途覚醒」が起こりやすくなる。

「加齢に伴い、眠りの質が変化するのは自然なこと。それを若いころのように眠れないと悩むことや、将来への不安から眠れていないと悩む状態が、高齢者の不眠症の問題なのです。実は、高齢の患者さんは睡眠薬の使用に漠然とした不安を抱いている方が多い。一方、薬がなくなったら困るという不安も抱えています」

 と話すのは、すなおクリニック(さいたま市)院長で精神科医の内田直さん。「薬に頼らない睡眠」を目指し、患者の悩みや状況に応じた助言を行う。

 最近は、高齢者にある種の睡眠薬を使うと危険であることがわかってきた。その代表的な薬が、フルニトラゼパム(サイレース)、エチゾラム(デパス)、フルラゼパム(ダルメート)、ハロキサゾラム(ソメリン)、ジアゼパム(ジアゼパム、セルシン、ホリゾンなど)などのベンゾジアゼピン系の睡眠薬だ。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」でも「慎重な投与を要する」としている。

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