厚労省(c)朝日新聞社
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総務省が厚労省に出したあっせん文
総務省が厚労省に出したあっせん文

 第1次安倍政権崩壊の引き金を引いたのは「消えた年金」問題だった。今度浮上したのは、法改正の不備により、国民健康保険料と社会保険料の二重払いが生じても、2年以上経過すれば払い戻されないという問題だ。二重払いの被害者は30万人以上とされ、その実態を調査した。

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 耳を疑うような申し出が総務省行政評価局の行政相談窓口に届いたのは、2017年8月のことだった。

 健康保険には、企業などで勤める人が加入している社会保険と自営業者などが対象となる国民健康保険の二つがある。

「社会保険と国民健康保険、どちらも支払って、二重払いになっている。どちらか一つしか加入できないはずなので払い戻しを受けたい」

 と東京都内の自営業者、Aさんから相談があったのだ。もともと、Aさんは国民健康保険に加入していた。15年10月に自ら会社を設立したが、そのまま国民健康保険に加入している状態が続いた。すると、社会保険を管轄する日本年金機構の事務所から、「法人なので、社会保険に加入しなければならない」との通知があったという。

 そこで、Aさんはその指示に従って、17年8月に社会保険に加入した。日本年金機構からは、法人設立時から社会保険に加入する資格を有していたとして、15年10月までさかのぼって支払うように求められ、全額を納付した。

 その際、国民健康保険と社会保険の二重払いが生じるので、還付の制度も教えてもらったという。

 そこでAさんは、15年10月から17年7月まで支払っていた国民健康保険料の二重払いになっている分を、国民健康保険の担当である最寄りの区役所の窓口で「還付してもらえないか」と相談したところ、16年4月から17年7月までは還付されるが、それ以前は2年の時効を過ぎているのでできないと告げられたというのだ。法人設立した15年10月から16年3月までに納付した国保保険料は戻ってこなかったというのだ。

 Aさんの訴えを受け、総務省行政評価局が調べたところ、市区町村が国民健康保険料を還付する場合、賦課決定(減額賦課)を行う必要があるが、各年度の最初の保険料の納期(通常6月末ごろ)の翌日から2年を経過して以後は賦課決定できない、つまり時効となる仕組みになっていた。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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