第1次安倍内閣の07年2月、国会で厚労省管轄の社会保険庁改革関連法案の審議中に社会保険庁のオンライン化したデータ(コンピューター入力した年金記録)に誤りや不備が多いこと等が明らかになり、年金記録のずさんな管理が「消えた年金」と社会問題化し、批判を浴びた。担当だった社会保険庁は解体され、日本年金機構に生まれ変わり、「消えた年金」問題は07年の参院選挙で与野党の逆転を招いた原因とされた。

 日本年金機構関係者はこう打ち明ける。

「法律上、前々から二重払い、還付が受けられないことはわかっていた。そんな申し出が実際にあることも聞いていた。しかし消えた年金問題で大変なことになって、また今度は健康保険となれば大騒ぎでしょう。それもあって黙っていたんじゃないのか」

 今回の二重払いの対応について厚労省保険局国民健康保険課はこう話す。

「二重払いをしても還付されない期間が生じることの対応をいま、協議中。法改正も検討しています」

 社会保険と国民健康保険の二重払いが生じる理由についてこう説明した。

「加入しなければならない事業主側の対応に問題がある。市区町村では、社会保険への加入資格の有無はわからない。厚労省は法人側に未納にならないように指導に力は入れてきた」

 そして、これまでも同じような事例があったか否かについてはこう回答した。

「自治体や一般の方から問い合わせがあり、二重払いや還付が受けられないことがあることは聞いており把握していた。ただ統計はなく、個人的にはたくさんあるとは思っていない」

 しかし、総務省関係者によると、「二重払いして保険料が戻ってこなかったという被害は30万件以上あると聞いている」という。「消えた年金」問題を追及した立憲民主党の長妻昭衆院議員はこう言う。

「14年に国保法が改正されたとき、ミスがあったのでしょう。責任は厚労省だけでなく、それを通してしまった国会にもある。毎年、だいたい15万事業所が適用事業所となるので、相当あるのではないか。15万事業所をサンプル調査したらわかるのに、厚労省は被害を把握しようと動かないのでしょう。だが、総務省からあっせんも出たので、来年の通常国会で厚労省は速やかに改正法案を出し、被害実態を把握するべきです」

 失政のツケを国民が払わされるのは、避けてほしいものだ。(今西憲之、本誌・田中将介)

◆訂正とお詫び
長妻昭衆院議員のコメント内の「15万事業所が適用事業所」という部分を週刊朝日10月19日号の記事では、編集部が誤って「15万事業所が新規加入するので」としていましたが、AERAdot.転載に合わせて訂正しました。お詫び申し上げます。

著者プロフィールを見る
今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

今西憲之の記事一覧はこちら