11日目の第3試合、奈良大付属高校が追い上げるも8対4で西東京の日大三高に敗れた。
しかし、奈良大付の、試合後のロッカルームは、にぎやかな笑いであふれていた。涙を浮かべながらも、白い歯がこぼれていた。
「お前のあの打席良かったな」「ナイスプレーだったよ」
そんな声が聞こえてくる。
そして、チームに欠かせない存在であった3年生唯一のマネージャーの新真美さんにも選手たちに囲まれ、笑顔を見せていた。
「甲子園、そしてこのチームが最高でした。甲子園に連れてきてくれてありがとうって言いたいです」
奈良大付は、過去5回決勝に進出しており、全て準優勝に終わっていた。奈良大会は、過去40回のうち、計37回が、天理と智弁学園の優勝だった。そして今夏、6度目の正直でついに栄冠を勝ち取った。
「去年の決勝戦、1−2で天理に負けて、目の前で先輩たちが泣いていました。あと一歩やった。だから、『絶対に天理に勝つ』とチームで常に言っていました」
その言葉通り、チームは10―9のサヨナラ勝ちで天理を破り、甲子園出場を決めた。
新さんは、その天理、智弁学園、そして奈良大附属のどこでマネージャーをするか迷っていた。
「強いチームでマネージャーをやりたかった。その中で、悔しい思いをたくさんしているところでやったほうがやりがいがあると思いました」
こうして入部したものの、苦しい毎日だった。
「同級生のマネージャーが途中でやめてしまい、一人になってしまいました。共感したり、悩みを打ち明ける相手もいませんでした。部員とマネージャの目線は違うし、苦しいことも違う。わかりあえないこともありました。それでも、部員の皆が、気を使って助けてくれて、何より甲子園に連れてきてくれて、一勝してくれた。今日の選手のプレーは、見ていてこれまでで一番気持ちよかったです」
5点ビハインドの9回裏、奈良大付が粘りをみせる。
「俺らはいける」「まだいけるぞ」
そんな声がベンチで飛び交っていた。1点を返すと、アルプスとスタンドの応援が一体化し始めた。
「ああ、これが甲子園なんやって思いました」
粘り及ばず、結果は、4−8。2回戦で姿を消すことになった。
奈良大付の田中一訓監督は新さんに「唯一の3年生で、遠いところから毎日通って、よく頑張ってくれました」とねぎらいの言葉を贈った。
「大学でも、マネージャーをしたいと思います」
最後まで、部員たちに囲まれ、充実した表情を見せていた。(本誌・田中将介)
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