片岡義男が「翻訳された日本語と同時に原文も読む」理由 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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片岡義男が「翻訳された日本語と同時に原文も読む」理由

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週刊朝日#読書

 本好きにとっては、旅に持っていく本を選ぶのもまた楽しいものです。外出しなくても、書物によって旅を味わうこともできます。作家・片岡義男氏が旅先で読みたい本として選んだ3冊は?

*  *  *
■片岡義男氏が読みたいベスト3
(1)『翻訳ってなんだろう?』
鴻巣友季子 ちくまプリマー新書 820円
(2)『世界漫遊家が歩いた明治ニッポン』
中野 明 ちくま文庫 840円
(3)『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実』
吉田 裕 中公新書 820円

■選書の理由
 夏にはほかの季節にくらべて感覚の幅が広がっている。新たな刺激をうけ入れやすい。しかも夏は旅の季節だ。日常ではない時間のなかで、感覚の幅は広く鋭敏だ。このことを最大限に利用するには、読書がもっとも好ましい。という考えかたのもとに、夏の読書として、次の三冊をおすすめします。

 翻訳をその日本語の表面を漫然と読むのではなく、訳者がどのような思考をへてその訳文に到達したのかを読む、という読みかたを強く提案したい。『翻訳ってなんだろう?』は、そのための入門として最適だ。

 訳文に到達した思考を、片方で支えているのは原文だから、翻訳された日本語と同時に原文も読む、という読書へと接近していくことも可能だ。自分による翻訳を試みると、翻訳の読書はいちだんと深まる。

『世界漫遊家が歩いた明治ニッポン』も夏の読書にふさわしい魅力をたたえている。開国したばかりの明治の日本は、世界中を旅することを自分の人生にした人たちにとって、未踏の地だった。交通技術の発達は、こうした冒険心に満ちた外国のひとたちを数多く、日本へ招き寄せた。そして彼らは、その日本に関して、大量の記録を文章や絵で残した。

「忘れられた日本の姿」という副題がついているが、忘れられたのはもはやどこにもないからで、急速になくなっていく日本のいまを生きる人として、消えていく過程を遠い過去にも見るのは胸躍る体験であるはずだ。

『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実』に書いてあることを、昔の話じゃないか、などと言ってはいけない。敗戦濃厚の時代に二百万人以上が犠牲になったかつての兵士たちは、じつはいまの自分たちではないかという発見を、夏のどこかで確認すると、その夏はいい夏になる。

■プロフィール
片岡義男(かたおか・よしお)=1939年、東京生まれ。著書に『くわえ煙草とカレーライス』『珈琲が呼ぶ』『万年筆インク紙』『ジャックはここで飲んでいる』など。

週刊朝日  2018年8月17-24日合併号


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