3「昭和元禄落語心中」(16年テレビ放映 1期各話約30分全13話)


芸の世界の奥深さと過酷さを大河ドラマのように描いた作品

 近頃の落語ブームのきっかけのひとつと言われている作品。与太郎は刑務所に慰問に来た八雲という落語家のはなしが忘れられず、出所してすぐ弟子入りさせろと押しかける。弟子を取らないはずの八雲が弟子入りを認める。こういう男を弟子にすることに何かいわくがありそうだ。

 そして八雲の家には小夏というめっぽう気の強い養女がいる。物語の初めからの謎が重要な要素となっていく。物語はこの与太郎が修業する姿の後から、八雲と、兄弟弟子の助六の若き日の物語が展開され、謎が明かされていき衝撃のラストにつながっていく。ここまでがアニメでは1期となっており2期では再び現代に戻り与太郎の奮闘が描かれる。とりあえず1期を見るだけで十分楽しめるが、やはり次が見たくなるはず。

 この作品の中では「野ざらし」「子ほめ」「品川心中」などの有名な落語がたくさん出てくるのも楽しめる。そしてアニメならではというか、すごいのは声優たちだ。落語については真打ちの林家しん平が監修しているが、声優たちはとにかく達者。いったいどれだけ練習したんだよと思うほどで、話すということでは優れた素質を持っている人たちだなあといまさらながら感じ入ってしまった。

 人間ドラマと笑いが魅力的な話で二度楽しめるユニークなアニメであることは間違いない。

4.「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦」(02年劇場公開 95分)
戦国時代にタイムスリップしたしんのすけが救いに来た家族と共に大活躍する

 クレヨンしんちゃんといえば、おバカでおませな幼稚園児なわけだが、この物語では少々シリアスなキャラになっている。自宅の庭が戦国時代とつながっていて、しんちゃんはある日ワープして武者と姫に出会うのだった。事情を知ったパパのひろしはしんちゃんを追って戦国時代に行こうとする。

 ママのみさえは帰ってこられるかどうかわからないと不安がるが、「しんのすけのいない世界に未練なんかあるか!」と言われて心を決め、家族で車ごとワープするのだった。行った先では姫と他の大名との政略的縁談が進んでいた。しんちゃんが現代では恋愛も結婚も自由であることを話したことで殿様は政略結婚のむなしさを感じて大名との縁談を辞退する。

 それをきっかけに敵が攻め込んでくる寸前にしんちゃんと家族は無事に再会できる。そして家族総出でお城の防衛戦に参加するのだった。いつもお尻を出してくねくね歩くしんちゃんは実は極めて身体能力が高く、このリアル合戦でもその能力を縦横に発揮する。そしてしんちゃんは最後に敵のひきょうな大名を問い詰めるのだった。姫と武者の間で通う淡い恋心が最後にある結末を迎える。しんちゃんと家族は無事に戻れるのか。クレヨンしんちゃんの作品の中でも家族の絆の大事さをたっぷり感じさせてくれる秀作である。

5.「千年女優」(02年劇場公開 87分)
愚直なまでに人を思い続ける、戦前戦後を通して銀幕で活躍した大女優の心情が胸に迫る作品

 引退して芸能界と縁を切りひっそりと暮らす元大女優の藤原千代子の元をある日、映像制作者の立花が訪れる。思い出の撮影所が解体されるのでそのドキュメンタリーを撮るためだった。引退後は一切取材を受けない千代子に立花があるものを渡すということでOKが出たのだった。

 千代子は女学生のとき、「特高」に追われるいわゆる「主義者」の青年を助け、彼を捜し落とした鍵を渡すために女優になった。立花は千代子の回想を聞くうちにバーチャルな世界に入り込んでいく。戦前の魔都上海の港から、馬賊が横行する満州、炎に包まれる本能寺などバラエティーに富む撮影現場が展開する。古い映画のファンなら共演女優を「この人は千葉早智子かな、いや桑野通子かな」なんて想像をするのも楽しいのではないだろうか。戦前の女学生の制服やモガのようなファッションもすてきだ。その一方で人が老いることへの悲しみにもしっかり向き合っている。

 なによりも人を思い続けるという愛の永久運動が胸に迫る。最後まで見て、千代子が鍵を渡して思いが遂げられるかどうかをその目で確かめていただきたい。この映画のモデルは原節子かなあと思いながら見終わる人も多いだろう。

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6位は映像美が美しいあの作品!