大きな血栓が血流に乗って心臓を経由し、肺動脈に流れ込むと「肺血栓塞栓症」となる。肺動脈が詰まるため、息苦しさ、めまいなどが起こり、酸素が不足して失神することもある。突然死の原因にもなりうる。

 肺血栓塞栓症がもっとも起こりやすいのは、飛行機から降りようと立ち上がって歩き出した直後や、車中泊で車から降りた直後だ。それまで滞留していた血液が、立ち上がる・動き出すことで一気に流れ、血栓が肺動脈に達してしまう。

 平塚共済病院院長の丹羽明博医師は次のように話す。

「たとえば空港内で息苦しくなれば、すぐに肺血栓塞栓症をうたがいますが、帰国後、数日たって起こった場合には、診断がつきにくいことがあります」

 息切れや息苦しさがあっても、心不全や呼吸器の病気が見つからず診断がつかないものの、肺血栓塞栓症が潜んでいるケースも珍しくないという。

 治療には、血栓をつくらせないようにする抗凝固薬が用いられる。以前から使われている「ワーファリン」のほかに、2014年から15年にかけて、DOAC(直接経口抗凝固薬)の3剤(エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバン)が静脈血栓塞栓症にも保険で使えるようになった。

 重度の肺血栓塞栓症の場合は、t-PA薬剤という薬を使った血栓溶解療法や、血管内カテーテルを用いた血栓除去治療、手術などがおこなわれることもある。

「DOACは効果が1時間程度であらわれます。よほどの重症でなければ、ほとんどが薬物療法で改善されます」(丹羽医師)

 血栓は、肥満、高齢、数カ月以内の出産や手術経験があるとできやすいとされる。また、たとえばアスリートなどで脚に繰り返し刺激を受けていて、静脈の内面に傷がある可能性のある人もリスクが高い。以前、サッカー選手が発症して話題になったが、この場合も血管内のダメージが誘因と考えられている。

「ロングフライトや車中泊後、あるいは現在、車中泊を余儀なくされているという場合は、予防に努めながら、脚の違和感やふくらはぎを押すと痛みがあるかなどをよくチェックするようにしてください。そして異常が感じられたら、早めに循環器内科を受診してください」(同)

 整形外科を受診する人も多いだろうが、受診の際には必ず、ロングフライトや車中泊の経緯を申し出ることが大切だ。

(ライター・別所文)