安倍首相とインドのモディ首相(C)朝日新聞社
安倍首相とインドのモディ首相(C)朝日新聞社
村上世彰氏(C)朝日新聞社
村上世彰氏(C)朝日新聞社
US-2救難飛行艇 (C)朝日新聞社
US-2救難飛行艇 (C)朝日新聞社

 もう一つの「首相案件」に暗雲が漂い、官邸が憂慮している。安倍政権がインド首相にトップセールスし、武器輸出第1号と期待される救難飛行艇「US−2」を製造した企業に招かざる客が現れたのだ。突如、筆頭株主となって現れたその客の正体とは──。

【安倍政権の武器輸出第一号と期待されるUS-2はこちら】

 旧村上ファンドの関係者が運営する投資会社レノやオフィスサポートなどが、東証1部に上場する新明和工業(本社・兵庫県、以下は新明和と表記)の株式を大量取得したことに注目が集まっている。4月11日に新明和の発行済み株式の5.46%を購入したことが明らかになると、26日には保有割合がさらに11.15%まで上昇していたことが判明した。兜町関係者が語る。

「今年2月ころから買われ始めたようです。かつて村上世彰氏は『物言う株主』として、M&Aコンサルティングを中核とする村上ファンドを率いて時代の寵児になった。レノは新明和の筆頭株主になり、村上氏が多大な影響力を持つのは確実です」

 村上氏が防衛関連株である新明和に目をつけたことに、安倍官邸、防衛省にも波紋が広がっている。

 新明和は特装車が主力で、ダンプトラックやごみ収集車などで国内トップシェアを誇る。だが、同社は戦時中に戦闘機「紫電改」や飛行艇「二式大艇」を製造していた川西航空機が前身だ。設立母体の航空機部門では現在、救難飛行艇「US−2」を製造している。

 問題はこのUS−2だ。

 2014年4月に「防衛装備移転三原則」が閣議決定され、US−2は安倍晋三首相肝いりの“武器輸出第1号”に挙がっている。

「安倍首相がトップセールスし、インドのモディ首相に売り込んでいます。インド海軍は12機を導入することを検討していますが、1機120億円と戦闘機なみに高いことが交渉のネックになっています。モディ首相が判断を先延ばしにしたので、官邸はUS−2などの防衛装備品と関連施設建設や機体整備、訓練などをパッケージとして売り込むインフラ輸出も検討していました。今秋にも日印首脳会談が行われますが、このタイミングで旧村上ファンドが現れたので官邸も頭を抱えています」(防衛省関係者)

 US−2は飛行機と船の特長を併せ持ち、世界で唯一、外洋で離着水できる飛行艇だ。ヘリコプターの航続距離では届かず、船では時間がかかりすぎる離島の急患搬送や、海難事故の捜索救助を行っている。救難飛行艇US−1Aの後継機として07年から部隊配備。海上自衛隊岩国基地に5機所属する。全長約33メートルで総重量は約48トン、定員は11人。最高時速は580キロ、航続距離は4700キロに及ぶ。オスプレイの航続距離が3900キロだから、持久力は抜群。13年6月にはヨットで太平洋横断中に遭難したキャスターの辛坊治郎氏を救出したことでも、注目を集めた。

 一方で新明和の株価は、レノが大量取得して以降、900円台から1100円台にまで上昇した(4月26日の終値1133円)。その要因を元証券専門紙社長で、メディアストラ代表の天野秀夫氏が解説する。

「防衛関連株は北朝鮮問題もあって高騰しましたが、対話ムードになったことで全体的に反落しています。その中で新明和株が上がったのは、村上氏の関連の投資会社が買ったことで思惑人気を呼んでいます」

次のページ
村上氏が考えていることとは?