私は現時点で貿易戦争勃発を想定していない。両国とも報復合戦による共倒れリスクを十分に理解していると思うからだ。

 しかし、米財務省の関係者のこの発言は、色々な意味で考えさせられる。今年3月末時点で、米国債の発行残高は21兆896億ドル。うち1兆1800億ドル(発行残高の5.6%)をだれかが売り出せば、米経済はひとたまりもないということだ。売り手は中国でなくとも、日本でもドイツでも米連邦準備制度理事会(FRB)でもよいはずだ。

 日本経済に当てはめると、国債発行残高は昨年末時点で956兆円だから、5.6%の54兆円分をだれかが売り出せば、日本経済はひとたまりもないことになる。日銀は2月末時点で452兆円もの日本国債を持つ。その一部を売り出すだけで、日本経済はひとたまりもなくなる。

 日銀は金融緩和のために国債を爆買いし、買いすぎた。インフレが加速すれば、反対に爆売りしなくてはならないはずだ。しかし、保有額が大きく、難しい。金融緩和前の状態に戻すには、国が満期で元本を償還するのを待つしかない。

 しかし、巨額の財政赤字を抱える政府は償還に回すお金がない。日銀はインフレを止める手段がない、と指摘する一つの理由である。

週刊朝日 2018年5月4-11日合併号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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