これまでフェイクニュースの拡散については「ボット」と呼ばれる自動プログラムが、大きく影響しているのではないかと言われてきた。しかし、研究ではボットを除外して分析している。さらにボットのみを分析対象にした場合も、フェイクニュースと正しいニュースの双方を同程度に拡散していたことがわかった。つまり今回の研究によって、「フェイクニュースを速く広く拡散しているのは人間である」ということが明らかになった。

 なぜ「人間」がフェイクニュースを拡散してしまうのか。研究チームはその理由について、「目新しさへの欲求」が原因ではないかと分析している。噂への反応に含まれる感情要素を分析したところ、正しいニュースは「悲しみ」や「予測」「喜び」「信頼」などの反応を引き起こす。一方、フェイクニュースは「驚き」や「恐怖」「嫌悪」といった未知のものへの反応を引き起こしていた。さらにフェイクニュースは正しいニュースに比べ「新奇性」が高かったという。研究チームは、新奇なものに引かれる人間の性質や、他人の知らない情報を知っているというステータスへの欲求が、フェイクニュース拡散の一因ではないかと推測した。

 この研究が公表されると、世界中のメディアが「驚き」の結果を報じたが、一部のジャーナリストや学者からは批判の声も上がっている。今回の検証はファクトチェックサイトが検証した噂に限られており、報道機関のストレートニュースについては検証されていないからだ。

 いずれにせよ、このような結果が明らかになったことは既存メディアにとっても大きな意味がある。人々がどのように情報を受容するのかを理解し、多くの人に伝わるように情報の出し方を工夫していけば、苦境を脱するカギが見えてくるはずだ。

週刊朝日 2018年3月30日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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