日本人の寿命が延びた今、定年後に年金と預貯金だけで暮らすのは、心もとない。ファイナンシャル・プランナー(FP)の森田悦子氏は、資産運用の必要性を説く。
退職金など老後の資産運用は、元本割れしないように「守り」の姿勢で。そんなアドバイスをよく聞く。しかし、人生100年時代が迫り、守り一辺倒では「長生きリスク」を乗り切ることが難しくなってきた。
総務省「家計調査」によると、年金生活を送る高齢夫婦無職世帯の家計は、月5.5万円収入が足りない。自らの蓄えでそれを補うわけだが、長生きすると金額も多く必要になる。老後破綻も招きかねない。
守りの運用が重要とされてきた理由は二つある。一つはシニアは若い世代と違って運用期間が短いから、もう一つは、働いて収入を増やすのが難しいからだ。
ただ、厚生労働省が発表した「2016年簡易生命表」によると、65歳時点での平均余命は男性19.55年、女性24.38年。男性は約85歳、女性は約89歳まで生きる計算になる。シニア世代も10~20年後を見据えた長期投資の視点が重要な時代だ。
収入を増やすのが難しいのは、今やシニア世代だけではない。バブル景気並みの人手不足と言われるなど景気は拡大中だが、賃金の伸びは低迷。わずかな給与アップも、社会保険料値上げや消費増税で打ち消され、現役世代も共通の悩みだ。
預貯金一辺倒ではなく、上昇の可能性がある株式などに収入や資産の一部を振り向ければ、年齢にかかわらず資産を守ることにつながる。
もちろん、退職金全額を値動きの激しいリスク資産で運用するようなことはすべきでない。しかし、投資額が少なければ、リスクも限定的。数%でも1割でも株式などに投じれば、リターンが年金の目減りを補うかもしれない。リスク低減のため、株式より値動きの穏やかな債券を加える手もあるが、投資額を抑えることがシンプルだろう。