田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
田原総一朗「改憲目指す安倍首相が狙う公明と希望の『両天秤』」(※写真はイメージ)田原総一朗「改憲目指す安倍首相が狙う公明と希望の『両天秤』」(※写真はイメージ)
 ジャーナリストの田原総一朗氏は、今回の選挙後、自民党と組んだ公明党に変化が起きると予測する。

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 この原稿を書いているのは10月19日で、投開票日の3日前だ。

 現在の情勢では、安倍晋三首相の自民党が、過半数を相当上回りそうである。

 だが、これは安倍政治が国民の多くに評価されているためではない。ちなみに、17、18日の朝日新聞の世論調査では、安倍内閣の支持率は38%で、不支持率が40%となっており、安倍首相に「今後も続けてほしい」は34%で、「そうは思わない」が51%と、否定的な意見のほうが多かった。

 安倍自民党が過半数を相当上回りそうなのは、希望の党の小池百合子代表の発言が少なからぬ国民の反発を招いたのと、北朝鮮と米国の緊張関係が高まったためである。

 安倍内閣の支持率が30%を割るという危険水域に陥ったのは、一強多弱が長く続き、自民党議員たちのほとんどが安倍イエスマンとなったために、安倍首相の神経がたるんで、森友・加計疑惑などを生じさせたためである。

 選挙後、自民・公明に希望の党が加わると、衆院の議席数の3分の2を相当上回ることになる。

 そこで、安倍首相は気を良くして、憲法改正を敢行しようと安易に考えているのではないか。

 安倍首相は5月3日付の読売新聞のインタビューで、2020年に憲法改正を行うと述べた。憲法9条に「自衛隊の存在を明記する」というのである。その理由を安倍首相は、「憲法学者の7割近くが自衛隊は憲法違反だと表明しているから」だと説明している。

 たしかに、朝日新聞の調査で、憲法学者の63%が自衛隊は憲法違反だと答えている。

 だから、自衛隊の存在を明記するのだ、と安倍首相は述べているのだが、実は安倍首相は大きな誤解をしているのである。

 憲法学者の63%が自衛隊が憲法違反だと表明しているのは、主に次のような理由からだ。

 憲法9条の2項では、日本は戦力を保持せず交戦権も認めないと示しているのだが、現在の自衛隊は世界7位とも言われる戦力を持つ軍隊である。さらに、安保法改正で集団的自衛権の行使まで可能になった。これは、米国が他国から攻撃された場合には日本も米国のために戦うということで、こうしたことは専守防衛の範囲から逸脱している。だから憲法違反だと主張しているのである。

 
 つまり、憲法に合わせるためには、思い切った軍縮をすべきだということだ。自衛隊の存在を明記すれば63%の憲法学者が納得するというのは、大変な誤解である。

 そして安倍首相は、おそらく誤解であることがわかっていて、あえて表明しているのであろう。

 公明党の山口那津男代表は、憲法改正に慎重である。実は、創価学会婦人部が憲法改正に反対なのだ。

 問題は希望の党だ。希望の党はおそらく50人以上は当選者を出すであろう。同党は、憲法改正に賛成している。小池代表はだからこそ、民進党からの合流組から憲法改正に反対のリベラル派を排除したのである。

 そういうことはないと思うが、安倍首相が憲法改正を実施するために公明党を外して希望の党と組む、あるいは、外されるのを恐れて、公明党が憲法改正賛成派に変身するという不安がないわけではない。

 選挙結果が出た後の、各党の動きを見守りたい。

週刊朝日 2017年11月3日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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