タレントの生島ヒロシさんが「歯科医師界のレジェンド」と呼ぶ現役歯科医の加藤元彦さん(86)は「歯がずれているだけで体全体のバランスが崩れる」と話す。加藤さんは、歯をピアノの鍵盤にたとえ、1本の歯が全部の歯に影響すると言う。

「ピアノの鍵みたいなものが歯。鍵一つ抜いたら誰もピアノをひかないでしょう」

 加藤さんの元には、遠方から通う患者も多い。老後の蓄えを使って歯を全てインプラントにした結果、心までフラフラになった患者もいるが、そんな人も元気にして帰すという。

 加藤さんは、歯よりも歯茎を大事にしようと呼びかける。歯と顎のつなぎ目が重要。そこにばい菌が入らぬように掃除する必要がある。

「歯は磨きすぎはだめ。歯茎が傷んじゃう。それよりも、1口30回、箸をおいて『噛む』こと。命を支えるのは食。顔は何のためにあると思う? 目で食べ物を見て、鼻でかいで、唇で触って歯で粉砕し食べるため。食べ物を命に変えるため。噛まない、噛めない、噛みたくないとなったら、老後は惨めです」

 直接の影響ではないが、口の中がキレイになると心も元気になるのだろう。前出の東京医科歯科大教授の荒川さんは、こんな話をしてくれた。

「ある日、膵臓がんの患者さん(30代)が車いすで処置室にいらっしゃいました。30分ぐらいでしょうか。歯科衛生士が口腔ケアをしました。するととても表情が明るくなり、歩いて病室に戻られました」

 歯や口の中の正しいケアは一日でも早く始めるほうがいい。自己流は楽だが、効果がなければ意味がない。健康寿命を延ばすために、正しい口腔ケアを始めよう。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日 2017年10月13日号