衆議院の解散に踏み切った安倍晋三首相。作家の室井佑月氏は異を唱える。

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 テレビをつければ、北朝鮮だ。べつに動きとしては、なにかが変わったわけじゃない。北朝鮮がミサイル実験をつづけ、この国は「さらなる制裁を!」といっているだけ。最近では安倍首相、「異次元の圧力」とかいいだした。

 なんじゃ、異次元の圧力って?

 この国の神主とか坊さんとか一カ所に集めて、あの国に呪いの電波でも送るのかと思っちゃったよ。

 異次元って、すごい言葉。アベノミクスでも「異次元の金融緩和」って出て来た。

 原稿を書いていてふと気づいたんだが、北朝鮮問題に関していえば、べつに3週間前、1カ月前の原稿を使ってもいいくらいじゃ。安倍首相の言葉は面白いほど強くなっているが、それに合わせ、メディアがやんややんやと笛や太鼓を鳴らしだす。

「北朝鮮祭り」を盛り上げるほど、安倍首相の支持率も上がってゆく。

 いやぁ、この祭り、まったく無駄じゃなかったんですね。もちろん国民にとって、ということではなく。

 ほ~ら、複数のメディアが「安倍首相が、早ければ今月28日召集の臨時国会冒頭で、衆議院を解散する可能性がある」と伝えだした。

 へぇ~、「我が国を飛び越えるミサイル発射という暴挙はこれまでにない深刻かつ重大な脅威」(安倍首相)ではなかったんですね?

 北朝鮮がこの国の原発にミサイルを撃つことがないように、選挙中も絶対安全、大丈夫ってことなんでしょうか。メディアならそこを聞いてよ。

 
 9月末からの臨時国会で、森友や加計学園の話を蒸し返されたら嫌だからか? 小池新党はどうなるかわからない、最大野党の民進党はガタついてる、今だっ、ってそれだけで?

 ほんと安倍首相、自分の持ってる力を最大限に使うのが上手。うちら国民のことはお構いなしで。

 ま、政治家もメディア人も、人間だもの。抑止力のためにこっちも核を、そう考える人間だもの。

 そう思えば、政治家が政治家でいるのは弱者救済のためなんて、ただの幻想と諦められる。国のトップがそうなんだから、正義のために闘うメディアってのもただの幻想。みんな人間。自分の権力を長く保ちたいし、お金が好きだ。

 あたしはタダのおばさんだから、さんまでも買ってきて食べて寝るわ。家呑みしながら、録画したワイドショーでも見てさ。

 そういえば、インドにいった安倍夫妻は楽しそうだった。国をあげての大歓迎を受けて。

 インドの高速鉄道に約1900億円を融資するって決めてきたってよ。それはまだよくて、すでにインドへ原発を輸出できるように原子力協定を結んでいるけど、事故の場合に日本メーカーが賠償の責任を負うかもしれないってよ。この国もガタガタなのに。

 が、考えても仕方ない、うちらは昭恵さまが着てらした、サリーの柄の話でもしましょうか?

週刊朝日 2017年10月6日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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