ユン:新学期にいじめが多くなるというのは韓国も同じだと思います。韓国の学校制度は日本から入ってきたものだという点で似ているかもしれませんね。もうひとつ、集団の中で目立つ存在がいじめのターゲットにされやすい点も協調性を重んじる東アジアの文化圏に共通していると思います。

 一人の先生が見る生徒数は25~30人と少なくなりましたが、それでも十分にはケアできない。映画にも出てきますが、休み時間のいじめは韓国もそうです。

荻上:日本におけるいじめの実態もユン監督の映画に出てくるように、コミュニケーションを操作するものが多くなっています。無視する、嫌なあだ名をつける、陰口を言うというのが中心で、テレビが取り上げるような暴力的なものは少なくなっています。「わたしたち」を観た日本の観客は、これは日本とまったく同じじゃないかと思うでしょう。

ユン:日常的に起きている子供たちのいじめというのは、実にささいなことから関係がこじれていく。そうした小さな問題を解決しないことには、暴力的ないじめも解決できないと思いました。しかも、大人たちは何がきっかけとなっていじめが発生するのかを自身の成長と共にいつしか忘れていってしまう。そうしたこともあり、この映画を撮ろうと思いました。

――対談中にユン監督は幾度も「いじめ」という言葉を発していた。近年は仲間外れを意味する「ワンタ」が使われているが、以前は的確に言い表す韓国語がなく、1982年生まれのユン監督の世代は「いじめ」と呼んでいたという。

荻上:この映画は、子供たちの小さな世界をとりあげています。しかも色味は淡く、ドキュメンタリータッチで撮られていますね。

ユン:今回わたしは「オアシス」などを撮られたイ・チャンドン監督にシナリオの指導を受け、ミステリーや恋愛の要素を入れるなどして何度も何度もシナリオを書き直しました。最終的に「映画的にハデに見せようとせず、自分が本当に書きたいものを書き上げてこい」とイ監督に言われたことが力になり、わたしの実体験にもとづくものとなりました。

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