荻上:子供たちとワークショップ的なことを撮影前にされていたとか?

ユン:わたしはこれが初めての長編映画で、子役の子供たちもほぼカメラの前に立ったことがない。この前にわたしが短編映画を撮ったときに、思い描く画の中に子供たちをはめこもうとして、自然な演技の難しさを思い知らされました。それで今回は撮影前に3カ月間リハーサルの時間を設け、子供たちに「今日は二人が初めて会う日だよ。転校してきたばかりの子とどんな話をするの?」と声をかけ、即興劇のようなことをしました。

 撮影中も子供たちにはシナリオを見せなかったので、当日何を撮るのか知らずにやって来た子供たちに「今日は文房具屋さんのシーンだよ」「ああ、あのとき練習したシーンだね」というふうに進めていきました。

荻上:だから台詞が自然で説明的ではないんですよね。印象的なのは、ソンが転校生のジアに話しかけようとして「いま声をかけていいのだろうか?」と一瞬躊躇(ちゅうちょ)する。子供なりに繊細な心の中が表れ、サスペンス的でもある。

ユン:そう見てもらえたのなら、とてもうれしいです。

――映画の原点は、ユン監督自身が少女たちの年齢に体験した「誰かを好きになったときの高揚、つらい気持ち」。シナリオを書く際には、見落とされがちな学校空間での日常に留意したという。

荻上:子供たちには、この映画が「いじめ」をテーマにしたものであることは伝えていたんですか?

ユン:それは伝えています。でも最初は子供たちに集まってもらい、ただゲームをしたり、話したりしてくつろぐ時間をつくることを心がけました。

 家庭や学校でのつらいことや、見たり聞いたりしたことをたくさん出し合い、演出部の女性スタッフも交え、遊びながら親しくなることができたと思います。ときには「これは親にも内緒だからね」と話してくれたこともあります。わかったことは、大人がぶち当たる問題と、子供たちが学校で遭遇する問題が酷似しているということです。

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