荻上チキ(おぎうえ・ちき)(右)/1981年生まれ。TBSラジオ「Session-22」パーソナリティー。メディア論を中心に評論活動を展開。著書に『ネットいじめ』などユン・ガウン(左)/1982年生まれ。子供が主人公の短編で数々の映画賞を席巻。長編デビューとなる「わたしたち」は東京フィルメックスで観客賞受賞(撮影/写真部・小原雄輝)
荻上チキ(おぎうえ・ちき)(右)/1981年生まれ。TBSラジオ「Session-22」パーソナリティー。メディア論を中心に評論活動を展開。著書に『ネットいじめ』など
ユン・ガウン(左)/1982年生まれ。子供が主人公の短編で数々の映画賞を席巻。長編デビューとなる「わたしたち」は東京フィルメックスで観客賞受賞(撮影/写真部・小原雄輝)

 いじめをテーマに揺れ動く子供の心情を繊細なタッチで描いた韓国映画「わたしたち」が9月23日から、東京・恵比寿ガーデンシネマなどで公開される。ユン・ガウン監督と評論家の荻上チキさんが、映画を題材に日韓のいじめ問題の「今」を語り合った。

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荻上:この映画の冒頭、少女の顔がアップで映し出されます。彼女の目の前でボールが行き交っているらしいとわかる。でも、ボールもまわりの子供たちの顔も見えない。声や音は聞こえるものの周囲から彼女は無視され、表情が曇っていく。ファーストシーンから観客は主人公の視点となり、自分の記憶を揺り起こされる作品だと思いました。

ユン:ドッジボールをしている場面を最初にもってきたのは、わたしが子供のころによくしていた遊びで、遠くから眺めていると子供たちは楽しく遊んでいるように見えます。でも、ズームアップすると子供たちには上下関係もあり、集団からはじき出されまいと孤軍奮闘している。そういう姿を映し出すことができるのではないかと思いました。というのもわたし自身、本来楽しいゲームなのにボールが怖くて楽しめずにいた。皮肉な状況からスタートすれば、主人公ソンの希望と恐怖を伝えられるのではと考えました。

荻上:あのシーンで印象的だったのは、先生がいじめの問題に関しては役に立たないということです。

ユン:たしかにそうですね。

荻上:先生が休み時間に目を行き届かせられない。いじめの構図として、とても鋭い描写だと思いました。

 ぼくは、自分もいじめを受けていたこともあり、現在いじめ対策のNPO活動をしています。ここで簡単に日本のいじめ問題について話させてください。

 2011年に大津市で起きた中学生のいじめ自殺事件を機に、いじめを防止する法律についての議論がなされ、いろんな統計を集めたことがあります。わかったことは、いじめが多く発生するのは小学4年生から6年生。場所は休み時間の教室、夏休み明けの9月が多いということです。

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