水爆と見られる装置を視察する金正恩朝鮮労働党委員長(右から2人目)=朝鮮中央通信ホームページから
水爆と見られる装置を視察する金正恩朝鮮労働党委員長(右から2人目)=朝鮮中央通信ホームページから

 北朝鮮の“挑発”が止まらない。日本上空を飛んだ中距離弾道ミサイルに続き、9月3日には6回目の核実験を強行した。

 核実験の爆発規模は過去最大で、160キロトンに上った。実に広島に投下された原爆の10.7倍のエネルギーだ。北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)搭載型の水爆実験に成功した可能性がきわめて高い。

 軍事評論家の田岡俊次氏が指摘する。

「広島原爆の熱線による被害は爆心地から半径3キロでしたが、160キロトンの水爆だと半径6.6キロにまで広がります。万一、東京に水爆が落とされたら、私が試算したところでは死者数は約200万人に上ります」

 建国記念日に続き、10月10日には朝鮮労働党創建記念日を迎え、今後も急ピッチに弾道ミサイル発射実験や核実験をくりかえすと見られている。韓国在住のジャーナリスト、ベヨンホン氏が言う。

「咸鏡北道豊渓里(ハムギョンブクトプンゲリ)の地下核実験場は四つの坑道があり、今回の実験を行ったのは2番坑道です。2番坑道は崩壊しましたが、同時進行で3番坑道を完成させ、4番坑道も現在建設中です。ということは、近いうちに少なくとも2度の核実験を立て続けに実施するはずです。金正恩氏はさらに爆発の威力の増大にこだわり、核弾頭の小型化も含めて精度を上げていくことに腐心するでしょう」

 水爆実験の成功は、北朝鮮が米国を威嚇し、軍事攻撃を抑止するための選択肢が増えたことを意味する。核実験に合わせて北朝鮮が初めて言及したのが、EMP(電磁パルス)弾の開発だ。EMP攻撃は高度数百キロの上空で核爆発を起こし、強力な電磁波を発生させて電気・電子機器を損壊する。兵器など軍事施設を麻痺させるばかりか、大規模停電が起こり、生活基盤となる社会インフラをも破壊することになる。しかも完全復旧には年単位の時間がかかるというから、ターゲットにされた国は尋常ではない被害を受けることになる。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の李鍾元(リージョンウォン)教授が解説する。

「核爆発させる高度によって異なるでしょうが、半径数百キロから1千キロに及び、日本本土がすっぽり入ります。アメリカの上空で爆発させても、広範なエリアの都市が機能不全状態に陥ることになる。現時点で北朝鮮のICBMは数が限られているし、命中精度や誘導能力も十分ではない。しかし、EMP攻撃ならば命中力は精密でなくてもいいし、大気圏再突入技術も必要ない。米国への威嚇として、金正恩氏はEMP攻撃のような使い方もあるのだぞ、と誇示しているのです」

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