さらには、未知なる新型ICBM「火星13」の存在が米国を脅かす。7月に高角度のロフテッド軌道で発射した「火星14」の射程は5千~1万キロとされ、米西海岸のロサンゼルスや北部のシカゴまで届くとされている。ところが、2段式で液体燃料の「火星14」に対し、「火星13」は3段式で固体燃料を使うと見られている。飛距離をさらに延ばし、東海岸のワシントンDCやニューヨークなども射程圏内に収めるという。

「現時点では届かないが、米東海岸まで約1万1千キロですから、あと半年もあれば完成させてしまうのではないか」(前出・田岡氏)

 もちろん、米国の圧倒的軍事力を前に、北朝鮮が本気で戦争を仕掛けるとは、通常は考えにくい。北朝鮮の目標は、弾道ミサイルの脅威を極限まで高めて、米国を直接交渉の席に着かせることだろう。そのうえで金正恩体制維持の保障と、事実上の核保有国として認めさせるというのが、北朝鮮の描くシナリオだ。

 それでも不測の事態は起きる可能性がある。前出の李教授が警鐘を鳴らす。

「北朝鮮は情報収集能力も低く、本音では米国に対して怯えている。米国がグアムに配備している戦略爆撃機B−1Bなどを近くまで展開すれば、圧迫行為のつもりでも、不安に駆られた北朝鮮は本当に攻撃に来たと誤認して戦争への触発となる恐れがある」

 戦争を回避するにしても北朝鮮の交渉相手は日本でも韓国でもなく、あくまで米国なのだ。

「北朝鮮に『通米封南』という言葉があります。米国との直接交渉により韓国を封じ、抑え込むという意味です。ICBMの開発の放棄と引き換えに、在韓米軍の撤退が最終目標です。それは中ロの望むところでもある。そうなると北朝鮮と中ロ、米国と韓国に日本を巻き込んだ形で新たな緊張状態が生じる可能性もあります」(前出・ベヨンホン氏)(本誌・亀井洋志、上田耕司、直木詩帆、太田サトル/岸本貞司)

週刊朝日 2017年9月22日号