幻肢痛は知覚神経末端の刺激によるものと考えられているが、科学が進歩した今でも原因は定かではないそうだ。

「いってみれば、がんは自分の細胞のバグ。がんという病気は、自分の体の一部であるのに、できる原因がわからないからこそ、発覚したときに“その人らしさ”がすごく出るものなんじゃないか」

 闘病を経て、時間がたつにつれ、内田さんはこんなことを考えるようになった。なぜだか、胸に刻まれているのは、手術当日のこと。付き添いは誰にも頼まず、一人で病院に向かった。手術の予定時間は当初は5時間半と、長丁場になると聞いていたからだ。付き添いがいないことに驚いた看護師は、こう問うた。

「ご主人やご両親は?」

 親きょうだいとはいろいろあって、とっくの昔に縁を切っている。3番目の夫とは2005年に離婚し、彼氏とはがん発覚前に別れていた。

「どっちもいません」

 内田さんは、「久しぶりに人から、まっとうなことを言われたような気がしました」と振り返る。

 がんと闘う中で、内田さん自身にもいろいろと変化があった。手放したものもあれば、新たに始めたものもある。

 例えば、恋愛。3度の結婚と離婚を経験し、付き合った男性は数多い。その内田さんが、がんの発覚を機に、「恋愛をやめた」のだという。

「病気を前にすると、周りにいる人の人間性が見えちゃうところがある。それで、本当に大事なものと、大事じゃないものが、すーっとわかった。それで、“今の私に、男はいらないや”って思っちゃった」

 それから、お酒。落ち込んだときに飲みすぎる傾向があったが、腸に悪影響だと判断し、今年3月にやめた。今はノンアルコール飲料で「十分満足」という。

 ばっさりショートヘアにし、金髪に染めたのも変化の一つ。手術でお気に入りの“へそピアス”が使えなくなる可能性も考え、耳にもピアスを開けた。がん発覚前から通っていた車の教習所は、抗がん剤治療を受けながらも通い、無事に免許を取得。最近は、愛車に乗って近所を運転するのが楽しみだ。

次のページ