男性と女性とでは、熟年カップルの温度差が顕著だ。若いころは、あふれ出る情熱のままにいつも一緒だったのに、時の流れと共に、適度な距離感が夫婦円満の秘訣(ひけつ)になっていく。

 東京都杉並区の主婦中川佳代子さん(仮名・62歳)は、26歳の時に2歳上の建築業界の営業マンと結婚。バブル時代に猛烈社員だった夫は深夜まで働き、中川さんは近所でパートをしながら2人の息子を育てた。夫の両親を看取り、子供たちが家を出た50代後半から自分の時間を持てるようになった。ところが夫が定年退職してから、一日中家にいる。うんざりした。外食や野球観戦に誘う夫に、とうとう中川さんはある提案をした。

「夕食は別々にしようと言いました。朝は作りますが、昼食は適当に食べてもらい、夜は完全に別々。夫と外食するより、お友達と一緒に食べたほうが楽しいですから」

 妻の提案を受け入れた夫は友達とネットビジネスを起こし、以前のように家を空けるようになった。中川さんは「ほっとしています」と表情を緩める。

 1992年から離婚カウンセラーとして延べ3万7千人の相談を受けている「離婚110番」の澁川良幸氏は「熟年カップルの場合、夫は5メートル、妻は50メートルがいいんですよ」と、距離感を指摘する。

「夫は定年退職するとロマンチックになって妻と食事や趣味を楽しみたくなるんです。一方、妻はなるべく一緒にいたくない。例えば夫が『カーテンを替えようか』と勧めても、20年前に自分の提案を無視したことを思い出し『今さら何よ』とムカついてしまう。夫が現役で働いていたころの生活になじんでいるため、夫が外食や旅行に誘っても戸惑ったり拒否したりする。夫を嫌っているわけではないが、家では少しだけ見えるところにいてほしい。それが本音ですね」

 澁川氏は、熟年夫婦が適度な距離感を保つために、場合によって「前向きな別居」を提案する。

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